「僕、なまえちゃんが好きなんだ!僕の彼女になって!」幼い頃、そう言った俺の隣にはその彼女はおらず、
別の人が隣にいる。
もうすぐ終わりだな、と時計に目を向け思う。
直後、チャイムが鳴り授業が終わった。
教科書をしまい、顔を上げると連二と目が合った。
「今日もあいつと食べるのか?」
「…すまない」
「いや、気にすることはない。付き合っているんだ、当たり前だろう?」
「フフッ」
笑いながら、目線を反らす。
「じゃあ、また昼休み後に」
「あぁ」
蓮二はそう言うと教室を出て行った。
屋上でテニス部と食べるのだろう。
俺も今までそうだったから。
今までというのは柚月と付き合う前だ。
「精市君っ、」
声の主は彼女。
「今、行く……」
弁当をいつも置いている場所に手を伸ばしてもその手は空気を切った。
「…どうかした?」
「弁当忘れたみたい。購買行ってくるよ」
「ついてく」
「ありがとう」
今まで――先ほども言ったように、柚月と付き合う前までは弁当を忘れることはなかった。
いや、忘れたことはあっても弁当はきちんとあった。
「精市、お弁当!」って言って持ってきてくれるなまえがいたから。
けど、
今、あいつは俺の近くにいない。
遠い存在になってしまった。
「…………、」
今だって、ほら。
廊下を歩くなまえをすぐに見つけられる。
なまえの顔には笑み。
俺には向けてくれなくなったのに。
その笑みの先には仁王。
屋上に行ったんじゃなかったのかよ。
「…精市君……?」
「っ…、…ごめん、行こうか…」
「うん、」
髪の毛を切ったのだって気づいてた。
けど、そんな会話をする機会さえなかっただろう?
俺を避けてるのだって。
どうしてこうなった?
なまえが変わった?
それとも、
俺が変わった?
「一緒に帰ろう…?」幼い頃、泣き虫だったなまえを慰めるのは俺の仕事だった。
今は、慰められる距離にいれないんだ。
どうしてこうなったのか分からず毎日を過ごす。