「お弁当食べよー」
「ごめん。私今日購買」
「ついてこうか?」
「大丈夫だよ。あ、場所取りお願い」
「了解」













少し起きるのが遅れたという理由で精市に会ったところか、お弁当まで作れなかった。
お母さんは結婚してからもバリバリ働くキャリアウーマンなため、最低限度のことは自分でする。

そんなお母さんと仲が良かったのが精市のお母さんだったというわけで。
家庭的な精市なお母さんに小さい頃はよく預けられたものだ。
最近は全く会っていないけど。


廊下に出ると購買へ向かう人の波が押し寄せる。


購買から一番遠い私のクラス。
自販機は近くにあるのに。


一番遠いのだけが嫌なわけじゃなく、精市の教室の前を通るというのが嫌なのだ。


昼食時、精市の彼女は精市といつも一緒にいる。
それを見るだけで、どれだけ辛いか。
誰にも言ったことのないこの気持ちを分かち合ってくれる人なんて誰もいない。


「!!」


突如頬に当てられた冷たい物体。
こんなことするのはあの人しかいない。


「……仁王…」
「クックック…、正解なり」


口角を上げながら目を細める仁王。

仁王とは中学で1年間、高校では去年同じクラスになった。
多分、仲のいい友達にはなってるはずだ。


「仁王も購買?」
「ん」
「へぇ、なんか以外…」
「メロンパン買うつもりできたんじゃが」
「えっ、仁王がっ?!」
「……顔で判断されるって結構辛いぜよ」


いつの間にか、精市の教室の前は通り過ぎていた。
一人だったらいろいろ考えて、難しい顔しながら通ったんだろうな。


「…ありがと、仁王」

ぼそりと呟く言葉は

「ん?」

やはり、彼に届かず、

「何でもない」



でも、これは聞こえてほしくない言葉だったから、

もう一度心の中で呟いた。





「みーつけた!」
かくれんぼをすると必ず私は見つかった。
それくらい精市は私を見つけるのがうまかった。
今じゃ、きっと私のほうがうまいのにね。
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