「僕、なまえちゃんが好きなんだ!!僕の彼女になって!!」

幼い頃、私にそう言った彼はもうおらず、
そこにいるのは違う子を隣に歩く彼の姿。













朝、学校へ向かうため駅へ急ぐ。
いつもより少し家を出るのが遅れた。
けれど、お隣りさんよりは早く出れたようだ。

急いでホームに行き、電車を待っていると後ろに人が並ぶ。
あぁ、やっぱり間に合わなかった。

「へぇ、そんな事言ってたんだ」
「ほんと、無茶な事言うからさ。我慢できなくて」
「別にそれくらいいいんじゃないかな?」


男と女の二人組で、男の声はあたしもよく知る声。
高すぎず、低すぎず、よく通る声で。
テニス部にしては色白な肌で、全てを見透かすような瞳を持つ。


幸村精市は私の幼なじみ兼お隣りさんだ。

そして女のほうは…精市の彼女だ。

いつもより起きるのが遅くなったのがいけなかった。
この時間でも朝練には余裕で間に合うのだが、精市に会いたくないがためにもう1本早い電車に乗っていく。





精市に彼女ができてからというもの、極力精市を避けた。





すると神様は私に味方してくれたのか中学3年間同じクラスだった私と精市を高校では違うクラスにしてくれたのだ。


なぜ、私が精市を避けるのか。

精市に迷惑をかけたくないから。
私が精市を好きだから。
この感情がばれてほしくないから。



「あれ?なまえ?」


後ろからの声に身震いする。

確かに私の名前を呼んだが電車がちょうど入ってきてすごい音がしたから、という理由で聞こえないフリをした。

電車が止まり、ドアが開くのを待つと後ろから肩を叩かれる。
ゆっくりと振り返ると、微笑みを顔に貼付けた精市とその彼女がいた。


「おはよう。髪切った?全然わかんなかった」


髪を切ったのは大分前だよ。
精市の事避けて顔も合わせなかったからね。


「おはよう」


目線をずらすと精市の手と彼女さんの手が繋がれてるのが見えた。


「なまえちゃんは誰が好きなの?」
そう私に問い掛けた彼はもういない。
どうして、変わってしまうんだろう?
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