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自由を失った


「じゃあ今日はこれで終わりにしよかー。片付けー。」


全ての仕事を終え、小春ちゃんと話していたところかかった号令。


「もう、終わりなんっ?もうちょっと話してたかったわー。」
「どんどん日が短くなってるよね。」
「冬に近付いとるんやなぁ…。冬はお肌が乾燥するから嫌やわー。ええなぁ、なまえちゃんはお肌スベスベでっ。」
「小春ちゃんのほうがスベスベだよ。」
「先輩ー。オカマの相手なんてしとらんと俺の相手してやー。」
「コラッ財前っ!小春になんてこと言うねんっ!」
「小春ちゃん、何か化粧水使ってる?」
「え?先輩無視?」


部活の雰囲気にもなれ、部員のみんなとの仲も深まってきたと思う。
みんなそれぞれ違うけど、面白いことに変わりはない。


「あれっ?白石君着替えないの?」


ふと、目に止まったユニフォーム姿のままの白石君に声をかける。


「ん?もう少ししたら着替えるで。あ、あと鍵閉めてくからみょうじさん先帰ってててええよ。」


口角を上げる白石君。
その動作に違和感を覚える。


「…そう?ありがとう…。」


鍵を閉めて出るのはマネージャーの仕事だ。

けれど、白石君がこう言ってくれてるのだから好意に甘えようと思った。

こうゆう時反対しても彼は何となく上手くやり過ごして結局は彼が始めに言った通りにしてしまう。
そうゆう人だという事も知った。


「ほな、また明日。みょうじさん。」
「また明日。」


手を振り返し、白石君に背を向けて歩き出す。

校門を出て、少し歩いたところでリピートされたいつかの忍足君の言葉。


完璧なテニス


「……もしかして…。」



もう一度コートへ踵を返す。



パコーンッ


やはり、コートに見えたのは今だに動くテニスボールの姿だった。
彼の放ったスマッシュは綺麗な線を描きながらコートに入る。

なのに…



「…こんなんじゃあかん……。」


そう呟く白石君。


今のでも試合だったら明らかに点数は取れただろう。
まだ日は出ている。
だから自主練してるの?



「…完璧じゃあらへん……。」
「…あ………、」



鮮明に思い出された白石君のテニス。
去年の全国大会。
目を奪われるほどのテニスをする人がいた。

ミルクティー色の髪の毛。
黄色と黄緑のユニフォーム。

今思い返せば、少し変わってはいるものの、あれは白石君だったと言い切れる。


けれど、

その時と違うのだ。


確かに上手い。
上手いけれど…

縛られて、自由が無くなってしまったような。



「……こんなの…完璧じゃあらへん……。」


違和感はこれだったのだ。
初めて見た彼と今の彼が重ならなかった。


完璧を求めるが故、自由を失った白石君…。


あたしに何か出来るのか?
そのままあたしは、しばらく白石君からは見えない位置で立ち尽くしていた。

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「なんで完璧を求めるの…?」






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