一人を除き
「……広いね。」
「みょうじさん、こっちやで。」
「あ、うん。」
テニスコートに入るともう練習は始まっていて、試合などで見たことのある人もいた。
「はい、集合っ!」
白石君が大きな声をあげる。
「やだーっ!蔵リン女の子連れとるやないのー!しかもめっちゃ可愛い子っ!ロックオン☆」
「小春っ!浮気かっ!」
ホモップル。
と立海でも噂されてた二人。
「今日からテニス部のマネになってくれるみょうじなまえさんや。軽く自己紹介してもらおか。」
白石君はちらっとこちらを向き目で合図をする。
「神奈川の立海から来ました。みょうじなまえです。立海でもマネしてました。全国まで皆さんをサポートしていきたいです。…よろしくお願いします。」
あたしは頭を下げた。
「そんな改まってお辞儀なんてせぇへんとってや。」
目の前に出てきた男の人。
「顧問の渡邊やで。あ、分からんことがあったら俺やなくて白石に聞きや。」
先生がそう言った瞬間部員達がこけた。
一人を除き。
耳に光るピアス。
この間の子だ。
「ちょ!財前今のはコケるとこやろっ!」
「は?なんでこけなあかんのですか?」
「オサムちゃんがボケたやろっ!」
「財前どうしたと?機嫌悪いなぁ。」
「別に。いつもッスわ。」
機嫌が悪い。
あたしの事きっとよく思ってないんだよね…。
「……とりあえず今日から仕事始めるねっ。何がどこにあるのかだけ一通り教えてもらってもいいかな?」
「…おん。じゃあみんなは各自練習しとき。」
みんなは一つ返事をするとコートに戻っていく。
「ほな、行こか。」
「…あ、うん。」
白石君の一歩後ろを歩く。
これはあたしの立海にいる時からの癖だ。
男の人と歩く時はいつも一歩後ろを歩いてしまう。
これについてテニス部のみんなはうるさかったな。
「ふふっ…、」
「ん?どないしたんや?」
「あ、いや。思い出し笑い。気にしないで。」
「…立海は楽しかったん?」
「え?」
「立海のみんなはみょうじさんの事大切にしとったんやろうな。」
「ははっ、そうだといいんだけどね。」
「楽しそうでええなぁ。」
白石君は歯を見せて笑う。
けど、そんな笑顔も何故か悲しそうに見えてしまった。
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「なまえさんは人の気持ちを読むのが上手でしたよね?」
「そうじゃったのう…。」
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