女性に求めるもの


「おっさん、葡萄酒5人」

そう叫ぶヴィゴさんも十分おっさんだが、店主は気にもせず、『あいよー!』と返した。

今日は財務官の先輩達と酒場に来ている。残業していたら食堂の閉店時刻に間に合わなかったのだ。普段は皆ばらばらと晩ご飯を食べ、再び部屋に戻って残業をするのだが、今回は急ぎの案件でその時間すら取れなかった。

よって部屋に帰っても食事がない独り身連中、かつ、夜ご飯を抜くなんて無理というメンバーで来ている。ちなみに月末精算時は、食堂の方が夜食をしっかり作ってくれているので、晩御飯に困ることはない。

回ってきたグラスで乾杯をし、私は葡萄酒で喉を潤した。喉が一気にやける感覚が心地よい

「ちょっとシノ、一気に飲み過ぎですよ」

『大丈夫ですよ』という私の台詞を無視して、心配したジャーファル様にグラスを葡萄酒からジュースに交換された。

いいですけど、どんだけ子供扱いなんですか。

薬嫌いが発覚して以来、ジャーファル様の私への対応がどんどんと実年齢から離れていっている気がする。そんなことを思いながら私は葡萄ジュースをちびちびと啜った。

「そういや、皆さん、昼間に私に、『男性に求めるもの』を聞いたじゃないですか?皆さんはどうなんですか?『女性に求めるもの』って何ですか?」

私だけ答えたのって不公平だと、質問を投げかけると、

「しばらく会えなくても浮気せず、私を待ってくれる優しさ」

先日5度目のお見舞いの末に結婚したはずなのに、何故か今回の独身連中の食事についてきた40才の先輩。財務官だと切実な問題ですね。深く突っ込まないでおこう。

「酒に合ううまい飯を作ってくれれば、どんな女でもかまわん」

胃袋を掴むものが恋愛を制すのはどこの世界でも変わらないらしい。意外と食通。溜め込んだお金はお酒と食べ物に消えていってる30代半ばヴィゴさん。

「俺を抱きしめ癒してくれる可愛い男の子、かな」

いきなりカミングアウト。いや、謝肉祭で女の子を丁寧に断っていたのはこれだからか。30代前半財務官イケメン代表。

そして最後の回答者、我らが財務官のトップにして政務官、かつ、八人将のジャーファル様に視線が集まる。遊びたい盛りの20代なのに、年を感じさせないほどの仕事っぷり。浮いた話なんて聞いたことがないジャーファル様の好みは、正直誰もが気になっていることだと思う。

気立てのよさ?頭のよさ?優しさ?

何がくるんだろうと、わくわくしながら私達はジャーファル様の答えを待った。

ジャーファル様は『そうですね』と視線を彷徨わせ、そして私達の方を向き、『これだ』と言わんばかりに力強く言った。

「シンドリアへの献身と忠誠ですね」

えっ、それ異性に求めるもの?

場が凍りついた。あまりの予想外かつジャーファル様らしいセリフに私達は言葉が出てこない。そんな中ヴィゴさんが、『お前が聞いたんだからお前がコメントしろ』と、テーブルの下で私の向う脛を蹴りあげてくる。痛いって!他の2人もはやくしろよと視線を送ってくる。

「えっと、ジャーファル様、それ、女性ではなく部下に求めるものでは?」

『えっ』となったジャーファル様は先ほど同様にちょっと悩み、これまた力強く言い切った。

「言われてみればそうですね。でも部下には献身や忠誠だけではなく、コミュニケーション力や気遣いや機転の良さ、知識や知恵、フットワークの軽さ、忍耐力その他色々なことを求めます」

『まぁ、当たり前のことなんですけどね』と大層不思議そうな顔でこちらを見ている。

ジャーファル様の彼女になるより部下になる方が大変なのか。

ジャーファル様が列挙した部下の条件に、『やばい、自分足りてないところ、いっぱいだけど!』と思うところがある部下たちは視線をさ迷わせた。

prev next
[back]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -