男性に求めるもの


「女性が男性に求めるものって何かな?」

そう言って職場唯一の女性である私に声をかけてきたのは、先日5度目のお見舞いの末、無事ゴールインした四十路の先輩だった。

何かあったのだろうか?

そんな疑問を持ちながらも私は与えられた質問に素直に答えた。

「経済力ですかね?」

私のその台詞に周りにいた財務官(平均年齢30半ば(男))達は一斉に私を白い目で見てきた。『最近の若い子は…』とか、『ちびっ子、今からそれかよ』とか、『やっぱり女性って信じられません』みたいな声が聞こえる。

素直に答えたのにこの反応ってひどい。

ジャーファル様なんか私を酒が入った王様を見るような目で見ている。ちょっと傷つく。

「いや、だって重要ですよ!世の中経済力が物を言います。できれば現金だけではなく、リスク分散で貴金属や船荷証券と、わけて持っている方がベストです。土地はダメです。持ち運べませんから!」

言葉を重ねるたびに冷たくなる先輩たちの視線にもめげずに私は言い切った。

「だって、亡命って大変です」

昔のことを思い出す。私が二度目の生を受けた国では、私が小さい頃に内乱が起こった。その際、そこそこの利益を上げている商家だった私の家はあらゆる財産を没収された。国軍が実家の店舗に流れこみ略奪をしているうちに、私が家人の居住スペースから持ち出せたのはわずかばかりの貴金属だった。それも一緒に亡命した仲間の食糧金として1ヶ月も持たなかった。

だから、私は経済力って大事だと思うし、お金を得たら正しく運用したいと思う。

そんなことを考えていると、

「シノ、あなたって人は…」

先程までゴミを見る目で私を見ていたジャーファル様が口元を押さえて、震えていた。

「いいですか、シンドリアからシノが亡命しなければいけないことなんて起こりません。私がさせません。だから安心していいのですよ」

なんか先輩一同の琴線に触れたらしい。そこここで、涙ぐまれ、『もう大丈夫だから』と頷かれた。

男性に経済力を求めるもう一つの理由『単純に、貧乏じゃなくて楽な暮らしをしたいよね』は言わないでおこう。

「そういやちびすけ、それなりに大変な生い立ちだったな」

第二の理由を胸の奥底へ隠していると、あのヴィゴさんまでも私の頭を撫でてくれた。『大変な生い立ち』とヴィゴさんは言うけれど、私の頭を撫でてくれるその手は私の手なんかよりも傷だらけで、今まで生きてきた証が刻まれていた。

「別に同情なんていりませんよ。シンドリアにいる人は多かれ少なかれ何か事情がある人たちです。私より大変な人はごまんといますし、それに何より今が充実してますので」

『大変だけどこの職場でする今の仕事が好きです』そういう思いを込めて言えば、私の思いを寸分たがわず読みとってくれたジャーファル様が『それは何よりです』とほほ笑んだ。

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