巡り巡って


「ジャーファル様、去年のプール金が今年目に見えて減っているんですが、これってどこの担当の仕業ですか?」

私はジャーファル様に手渡し説明していた『シンドリア財政状況報告書』の問題となる数字をにらみながら聞いた。国の健全な財政政策に支障をきたしかねないレベルだ。どこの馬鹿がこんなになるまで予算持っていったんだ。

「今年は火事が相次ぎましたし、新しい企画が軌道に乗りましたから」
「乾燥していたので火事は分かりますが、その新しい企画とやらにお金使い過ぎじゃないですか」
「それをあなたが言いますか。寺子屋設置推進企画立案者のシノが」
「えっ」

にこりとほほ笑むジャーファル様の言葉に嫌な予感がし、私は脳内で、企画時にもらった予算と先日私の後任として企画を受け継いでくれた先輩から出された追加予算申請書の額を足し、書類の数字と比べた。

……昨年と今年の内部留保額の差額から火災損失を引いた額と寺子屋設置企画におりている予算額が完全に一致する。プールしていたお金の減少は、火事を除くと全て寺子屋のせいである。

「ない袖は振れませんよ」

ジャーファル様の笑顔がまぶしい。

「いやいや、いくら内部留保でプールさせて自由に使えるお金とは言え、この少なさは不味くないですか!手をつけちゃまずい部分まで手をつけてますよね!」

内部留保とはいわゆる財布の中のお金みたいなもんで、いますぐ使えるお金だ。いくら他に資産を持っていようとも、すぐに現金化できるわけではない。国とはいえ、現金がなくなったら終わりなのだ。

私の焦りなんかものともしていないジャーファル様の笑顔が刺さる。

「王が、『けちけちしてどうする、かまわん、やれ』と言うので。ただでさえ金貨の摩耗問題で貨幣量が少なくっているところ、君の企画に、一気に現金を割り当てましたので、ね?おかげで貨幣の鋳造が追いつかず、君がこちらに呼ばれたというわけです」

『何か言うことでもありますか?』そんな顔に返せる台詞は決まっていて。

「…………そ、そうですか。私、仕事がんばりますね」
「国が破綻しないうちにお願いしますね」

『気づいてなかったのかよ!さっさと仕事しろよ!』と言わんばかりの上司の顔が怖い。

世の中回っているんだなぁと思った瞬間だ。

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