健康診断1


「太ったか」
「ちょっと、ヴィゴさん、開口一番そんなことを言わないでください」

あたってるけどさ!
医務室から沈んだ表情で帰ってきた私を見て、隣の先輩は何があったか、あっさり分かったようだ。

定期健診で太ったことが判明した。ハードな仕事してるのに何故。席につき眉を潜める私に、呆れ顔の先輩はこれまたあっさりと指摘した。

「お前、時間を気にせず平気で夜食喰ってるだろ」

その言葉に、パンや麺類等炭水化物をもりもり食べている記憶が蘇る。

「だって、夜遅くなると晩ご飯だけじゃ足りないんですよ!」

仕方ないじゃないかと拳を握る私に、『女性はすぐ体重に反映されるから大変だって、妻も言ってましたよー』と、40代後半の財務官が言っている。

「君はまだ若いから大丈夫ですよ。まぁ、三十路越えると危険ですけど」

悲壮感たっぷりだ。三十路ではないが、増加してる時点で大問題。すでに増えた体重を元に戻すのに大変な苦労をする年なのだから。

「少しは喰うの止めるか、量を減らせ」

頭を抱える私に、ヴィゴさんは至極正論な意見を言った。

「で、でもジャーファル様が!」

体重というナイーブな話に、入る気も止める気もなかったジャーファル様を名指しすると、ジャーファル様は驚いた顔をした。

太ったのを他人のせいにするつもりはない。ないが!

「食べないのは身体に悪いからって、いつも満腹になるくらい手配してくれるんですよ!もう少し、少なめがよいと言っても聞いてくれないんです」

きっと顔をジャーファル様に向けた私に、『あぁー』と周りの財務官が頷く。彼らも同じ職場で働く身。その光景に覚えがあるのだろう。まるで親鳥がひな鳥に餌を与えるが如く、夜になると、ジャーファル様は私に夜食を手配してくれる。以前、深夜の静かな部屋で、私がお腹の音を盛大に響かせたのが原因だ。

周りの一斉の賛同にジャーファル様は少し不満そうだ。

「シノ、君は若いんですから食べないと大きくなれませんよ?」

いやいや、ジャーファル様、私の年考えて。そんなに成長が必要なほど若くないから。

自分でそれを申告するのも微妙で言葉を探していたら、ヴィゴさんが私を指差し、さらっと真実を述べた。

「ジャーファル様、チビスケもう横にしか大きくなりませんよ」

反論できない。ぐっと言葉に詰まる私を見て、三十路以降横に成長した妻を持つ財務官がフォローしてくれた。

「ヴィゴ君、言いすぎです。まだ若いですし、胸が大きくなるかもしれないじゃないですか!」

力強くセクハラ発言をする中年。何言ってるんですか、このおっさん。
しかし、私が抗議をする前にヴィゴさんが驚くべき発言をした。

「いや、無理じゃないですかね。こいつ胸じゃなくて腹にいくタイプだと思いますよ」
「何ですかそのタイプ!」

つい突っ込みを入れたが、それが本当ならまずい、非常にまずい。

「脱いだ時、胸より腹が出てる女は男にひかれるぞ」

ヴィゴさんの発言に『うぅ』と呻いていると、当人を気にせず、中年どもが好き勝手にあぁだこうだと議論をしている。

「お腹にいくのは嫌ですけど、僕は太もも二の腕ならありですね」
「そうっすか、俺は余計な肉はいらないです」

ちょっと!そう言いながら、私を見ないで!

泣きそうになっていると、まだ二十代で親父共の胸談義には入れない、入る気もないジャーファル様が中年どもを止めてくれた。ありがとうセクハラ担当窓口。

『いいじゃないですか』という財務官を視線で黙らせたジャーファル様は、困ったような顔で声をかけてきた。

「夜食の手配控えますか?」
「い、いや、いいです。食べます。お腹すくと頭回んなくなるんで。仕事に影響でるのはいやですし」

運動しよう。そうしよう。そんな決意をしていたら、その晩の夜食は野菜中心のヘルシーな物だった。『軽めのものを頼んでおきました』と言う、どこまでも母な上司に、昔を思い出し親孝行せねばなんて思ってしまった。

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