探し方(本編19話幕間)


「訓練しようぜ」
「さっきしたんで」

絡んでくる先輩を適当にいなしていると、遠くから『マスルール』と呼ぶ声が聞こえた。珍しく焦りが含まれた声に先輩と首をかしげた。

「マスルール、お前何したんだよ」
「先輩と一緒にしないでください」
「てめー」

相変わらずいつものように小突いてくる先輩にため息をついていると、あっという間にジャーファルさんがこちらまでやってきた。裾が乱れている。珍しいこともある。

「マスルール、君にお願いがあるのですが」

さらに珍しい。先輩と顔を見合わせていると、ジャーファルさんは俺に少しくたびれた掛け布を見せてこう言った。

「これの持ち主が今どこにいるか探してほしいのですが」

なるほど、それで俺か。『マスルール、お前犬として、見られてるぜ』と笑い転げる先輩を冷たい目で見ておく。

「いや、その、確かに君にこんなことを頼むのは申し訳ないのですが」

言葉を濁すジャーファルさんに俺は『いえ』と首をふった。

「いいっすよ。これの持ち主ですね」

俺は渡された掛け布を手に取った。

「てか、これ誰の何すか。なんか盗まれた現場に落ちてたとか?」
「いや、私の部下のものですよ、ちょっと急ぎで話がしたくて」

先輩とジャーファルさんの言葉になるほどと納得する。くたびれた掛け布は、見た目と違い良く洗濯され、優しい木の香りがした。たまにジャーファルさんにうつっている香りだ。
どこにいるのだろうと、嗅覚を研ぎ澄ませたら案外近くにいた。

「中庭の東の方、建物近くにいます」
「そうですか。助かりました」

そう言って、ジャーファルさんはすぐに踵を返してしまった。相当急ぎの用だったんだろう。

「仕事の話かね、ジャーファルさんの部下も大変だ」

先輩が他人ごとのように言っている。日ごろのジャーファルさんの仕事っぷりを見ていると、ジャーファルさんの部下でいることは確かに大変そうだ。

「さっきの掛け布って、ヴィゴのか?」

以前武官を務めていた男性の顔を思い出す。そう言えば、あの人は腰痛でジャーファルさんの部下になり、泣く子も黙る徴税係として日々脱税を企てる納税者から財産を押収していると聞いた。

「いや、臭いからして多分女性っすよ」
「え、まじかよ!ジャーファルさんの部下で!どんなやつだよ」

『財務官ってハードなんだろ、ヴィゴみたいに筋肉ついているとか?いや、この世の知識をぶち込んだようなしわしわなばあさんでもありだな』

そんな失礼なことを言っている先輩には、香りからして掛け布の持ち主が恐らく若い女性であることは黙っていよう。

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