招かれざる客


その伝令の言葉に部屋の空気が凍りついた。
『アバレウミウシまじ死ね』『空気読め、このやろー』そんなつぶやきが部屋のそこかしこから聞こえてきた。

普段なら南海生物と聞き、『謝肉祭だ』と喜ぶ彼らも、今は月末精算の真っただ中で喜ぶ余裕なんてない。むしろ、私が一時とは言え席を離れることになったアバレウミウシに恨みつらみを吐いている。

そんな中、扉近くに座る部下がかたかたと震えながら見送ってくれた。

「い、いってきてください」

計算能力をかわれて、こちらへ引き抜かれたシノ。おそらく私の計算書類を一手に引き受けるのだろう。

「出来るだけ早めに帰ってきます」

私はそう言うしかなくて。悲壮な空気を背負った部屋を後にした。

シンドリアに置いて南海生物の討伐は重要なパフォーマンスである。脅威を抱いてしまう存在を、祭りとしてプラスのものにするには、圧倒的な力を持った八人将が誰ひとりかけてもいけない。国民が不安を感じてはいけないのだ。たとえ八人将誰か1人いれば十分に事足りたとしても。

八人将としての自分の立場や役割、そういうものはしっかりと理解している。

ただ少しもどがしいだけで。

私の分まで計算書類を終わらし、力尽きて部屋の隅で倒れている幼い部下に布をかけてあげながら、そんなことを思った。

彼女にはまた数時間後に起きて仕事をしてもらわないといけない。少しでもシノが頑張れるよう、部屋の中で幽鬼の如く謝肉祭の御馳走を食べている部下達から、彼女の食事分を確保した。

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