枕


「見てください!買っちゃいました」

その声に顔をあげるとまだ年の若い部下が隣の先輩にあたる部下に枕を見せていた。

「オーダーメイドの羽毛枕です!これで修羅場の日々も快適に床で寝られます」

そんなことを言うシノに目を覆いたくなった。出来るなら部屋で寝かしてやりたいが、修羅場に入ると私たちにそんな余裕はない。つい、そこら辺の床で仮眠をとってしまう。ちなみに自室で仮眠をとると、たいていの人間が寝落ちて戻ってこなくなるので、白羊塔内にある仮眠室かこの部屋で仮眠をとることがいつの間にか奨励されていた。

戻ってこられるなら自室で寝た方が疲れが取れていいんですけどね。

「ふぅん、悪くないんじゃないか。いくらだ」
「金貨3枚です」
「高すぎだろう」

悪徳業者に騙されてるんじゃないだろうか。心配になるほど高い枕を先輩にあたるヴィゴが胡散臭そうな目をして凹ませている。

「もっと優しく扱ってくださいよ!ヴィゴさんの筋肉で布が破れたらどうするんですか?」
「そりゃ、不良品だな」

そう言って枕を潰したり引っ張ったりするヴィゴのせいで布はみるも無惨に伸びている。そんな枕を、筋肉隆々の彼から取り戻そうと一生懸命引っ張っているシノはいつも以上に年相応に見えず、少し意地悪をしてみたくなった。

「ヴィゴ、ここでその枕を破けば羽毛が飛び散るので気をつけてくださいね」
「ジャーファル様、私の枕を気遣ってください」
「君の枕よりも、書類の方が大切です」

『部下の安眠も大切にしてくださいよ』と呟き、見事に取り返した枕を抱え込む彼女は、幼児がお気に入りの玩具を誰にも盗られまいと抱える姿そのもので、不覚にもかわいく思えた。

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