修羅場終了


「お、終わった!脱いでいいですか!」
「部屋に戻ってからにしなさい!」

そんなやりとりが耳に入る。
今回の月末精算は酷かった。ひたすら暑かった。ただでさえ普段から暑いのに、修羅場4日目に台風がきて2日ほど窓が明けられなかった。それが決定打だった。

暑さにやられた先輩が3人も脱ぎ出すし、初老の財務官2名が脱水症状で倒れた。

私も暑さと眠さで何度か意識があちらの世界に旅立ちかけたが、忙しなく『水を飲みなさい!』『脱ぐな!』『吐くなら外へ行け!』と叫ぶジャーファル様の声にこちらの世界に戻された。あのとき旅立てていたらどれほど幸せだっただろう。

でもそれももう終わり。部屋に帰れる。脱げれる。倒れられる!

そう思いながら、最後の書類の法務担当の審査を待っていた。ジャーファル様に見てもらっているから、問題なく認可がおりるだろう。

それにしても、本当に暑い。しっとりと汗で濡れた布が肌にまとわりついて非常に気持ち悪い。私は机の下で官服の裾をばたばたとあおいだ。

が、修羅場が終わりシンドリアの母となる余裕ができたジャーファル様に見とがめられた。

「こら、はしたない」
「えぇ、これくらい許してくださいよ」

私は『あれ見てくださいよー』という思いを込めて、隣で机に突っ伏しているヴィゴさんの足を見た。太ももまで官服を間繰り上げている。

四捨五入で四十、筋肉隆々の男性の太ももは、うん、ノーコメントだ。

ジャーファル様はげっそりとした顔で、『見えないようにしなさい』と言うにとどめた。

その後、無事法務担当から書類の審査が通った旨を聞き、ジャーファル様に部屋まで送られ休むことになった。今回は昼に修羅場を終えたため、明るいのに何故?と問えば。

「廊下で脱いだまま寝られたら困りますから」

そういやこの前、王がそんな状態で早朝侍女に発見され騒ぎになっていたっけ。さすがに女性として、そんなことはしないって。

「君、修羅場2日目に脱ごうとしていましたよね」

そう言えば、そんなこともあったような。ジャーファル様がじと目でこちらを見てくる。よく覚えていることで。

「私も眠いんです。さっさと部屋に行きますよ」
「はぁい」

普段なら、『しゃきっとなさい』と言うジャーファル様だが、彼も相当疲れていたみたいだ。

二人並んで歩く私達は、同じように目の下に隈を作り、同じようにふらふらしていた。それが同じ修羅場を越えたものの証みたいでちょっとだけ嬉しかったのは秘密だ。

ある修羅場明けのこと。

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