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目を開けるとジャーファル様がベッドの脇の椅子に座って読み物をしていた。

「……ぉ、はっ」

状況が分からないものの、とりあえず、挨拶をしてみようと口を開くが、からからに乾いた喉では声にならなかった。

しかし、そんな虫の羽音レベルの声ならぬ声をしっかり聞きとったジャーファル様は肩を揺らして顔を上げた。その顔は何かを耐えているような、隠しきれず漏れているような、そんな表情をしていた。

「今は、『こんばんは』ですね」

少し震える声を聞き、何を押し殺しているのかわかった。

でも、なんでこの人泣きそうなんだろう。

ぼぉーっとする頭で考えていると、『飲んでください』と水が入った腕を口に添えられた。

いや、起きますって。

ジャーファル様の行動を不思議に思い、体を起こそうとした。しかし、自分の意思とは裏腹に体は肩が少し浮いたくらいだった。

そんな私を見てジャーファル様は痛ましいものを見るように目を細めた。

何故そんな顔をされるのか分からない。

しかし、改めて意識すると自分の体がすごく重かった。気怠さを通り越してもう痛いくらい。小さい頃熱を出し数日間起き上がれなかった時を思い出した。

倒れるほど体調悪かったっけ。

確かいつも通りの時間に仕事を終え、ジャーファル様に居住区の入り口まで送ってもらった。そのあと、一気に眠くなってふらふらしながら、部屋に戻って。

戻ってどうした?

記憶を巡らすが、あの時は眠くて半分意識がなかったし、今の疲れている頭では思い出すことすら億劫だ。

「……と、ぅみ、ん?」
「そんなわけありますか!!」

考えを放棄した私の言葉にジャーファル様はすかさずツッコミをいれた。声が出ず、口パクに近い状態だったのによく聞き取れるものだ。

「ばかなこと言わずさっさと水を飲んでください」

そう言って先ほどよりも若干力を入れて椀を押し付けられた。少し泣きそうでイラつきながら、それでも安堵したような、とにかくよく分からない顔で水を飲めと迫って来る。何があったが気になりはしたが、痛いくらいに乾いている喉を潤すため私はありがたく水を頂戴した。

何回かおかわりをし、ほっと一息ついた頃にはさっきまで泣きそうだったジャーファル様もいつもの顔に戻っていた。

「私は君の思考についていけませんよ、本当に」

こちらを見て少しわざとらしいため息をついている。

これこれ、この顔じゃないと、私どういう反応していいかわからない。

ジャーファル様を眺めていると、上手く飲めず零れた水を布で拭ってくれた。普通なら恥ずかしさですぐ拒否するが、今の頭では感覚も鈍っているみたいだ。全然恥ずかしくない。

水は思った以上にこぼれていて布が口元から首筋に移動した。布が首筋を優しく擦り、くすぐったさに体を動かそうと力を入れた。すると、すぐに察知したのか、『こら、動かないでください』と上から声がふってくる。仕事の時みたいに注意する声で、仕事とは全くちがうことを注意するので、なにか無性におかしかった。

口の端をすこしあげて笑う私にジャーファル様は、『何笑っているんですか』と少しだけ乱れた布団を肩まで掛け直してくれる。その優しい手つきに子供の頃を思い出した。

「シノ、ゆっくり休んでください」

よく分からない安心感に満たされ私は、再び体が求めるままに目を閉じ眠りについた。

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