紅の幻影 | ナノ


永訣、闇を求めて 4  


(エドside)

忍び込んだ第5研究所で遭遇した2人組。
暗闇から現れ、黒を纏ったこいつらは間違いなくリトの世界……現世の敵。
ずっとリトを苦しめてきたやつらだ。

「──…ここまでたどり着いたご褒美に、いい事教えてあげようか?」

ニヤニヤとオレを見下ろすエンヴィーの考えている事が読めない。ただ予想できるのは、こいつにとっての“いい事”ってのは十中八九オレにとって“悪い事”だと言うこと。

オレが返答しないでいると、それを肯定ととったエンヴィーが話し出す。

「リトってさ…、あとどのくらい生きれると思う?」
「なっ、なんだよ急に……」

唐突すぎる質問にオレの思考が追いつかない。こいつは一体何が言いたいんだ。怪訝な顔で見上げると、エンヴィーは口角を上げて笑う。オレを見下し、嘲笑うように歪んだ三日月型の瞳。ゾクリと言いしれぬ寒気が背筋を全力で駆け上った。

「ねぇ、知ってた?このままの生活を続ければ、あと少しでリトの命は終わるんだよ?」
「…なっ!デタラメぬかすな!!」
「嘘じゃないわよ」

突拍子もない事を言われて声を荒げるオレに、今度はエンヴィーの隣の女が言った。

「そもそも時空を越えるなんて事、いくら時空の鍵を使ったからと言って、そんなに簡単なものじゃないの。あなたなら分かるでしょ、錬金術師さん?」
「…っ、それは……」

あぁ、そうだ。リトが平然とやっている時空の扉の閉開だって、普通に考えればありえないことなんだ。
そのありえないことを現実にしてしまうリトは、さすが時空の番人と呼ばれることはある。

「だったらもう少し考えれば分かるんじゃないの?時空を越えるために必要なモノ……」

時空の歪みを感じ取ることの出来る番人、二つの世界を繋ぐための鍵。
鍵を使って扉を開ける……───代価。

そんなバカでかい事のために毎回、リトが支払っているモノは?

等価交換。その法則に見あったもの、それは……


「…いの……ち……?」
「正解ッ♪」

嘘だろ?
だってリトはいつも平気な顔してたじゃないか。出会った時も、旅してる時も、現世に行って帰ってきた時も。
この前だって…『大丈夫です』って……。


「離して下さい……私は大丈夫ですから…」


───……ッ、そうだ。
あいつは昔から、そう言うやつじゃねぇか。

しんどくてもぶっ倒れるまで我慢する。涙も極力見せない。辛くても、悲しくても…


「うるさいです」
「あなたなんて大嫌いです!」
「殺しますよ?」


あいつは、いつだって強がってた。頼ろうとしない。全部一人で背負い込んで、気づいたときには手遅れになるほどに。それがリトという人間。

いっぺんにいろんな事が頭の中で起こり、感情の整理が出来ない。思考回路がショートしそうだ。
そんなオレを心底愉快そうに見下ろしながらエンヴィーは続ける。

「命を代価に時空の扉を開く。それがリトと鍵の約束……」

決断したのは9歳の春。
普通との決別。

「リトが鍵を使えば使うほどリトの命は鍵に吸いとられ、鍵についている石の色が変わっていく……」

青から赤へ。そして、赤から紅へ。まるでリトの血を吸っているかのように石は色を変えるという。

「っ…リトはその事…」
「もちろん知っているわ。そして、命が減っていくのを止める方法も」
「止める事が出来るのか!?」

そうすればリトは助かると、少しの希望を抱いてオレは顔を上げたが、エンヴィーはクツクツと喉の奥で笑うばかり。

「簡単な事だよ。鍵を使わなければいい。持ってるだけじゃ命は減らないからね」
「あ…そうか……!」
「だけど無理ね。あの子はそれでも鍵を使うのをやめないわ」
「そんな……どうして!」
「リトが優しいからだよ、愚かなほどにね」

最初は言ってる意味が分からなかった。優しいから、止めない?死期が早まるのに?

しかし、リトという人間を……本当の彼女を思い浮かべた時、答えは直ぐに見つかった。
リトの愛する世界、現世に守りたい者達がいる限り、時空の歪みが起こればリトは何度でも扉を開く。

そしてエンヴィーがこの“世界”にいる限り、リトは何度だって戻ってくる。エンヴィーを殺すために。

たとえ、それが自分の命を削る行為だと知っていても。

「…っ、ふざけんなよ……!」

あいつは本当に大事なことを何一つ話しちゃくれない。どうして全部、一人で抱え込む。あんな小さすぎる背中に、親友も世界もオレ達も……みんなみんな背負いこんで…。

「……っ、お前らはリトをどうしたいんだ!あいつに…何をさせたいんだよ!!…」
──ドス!

鈍い音が聞こえた瞬間、オレの腹にめり込む野郎の膝。

「がはっ……」

吐き気が襲い、意識が遠くなる。

「リトに何をさせたいか……それは自分で考えなよ、おチビさん」
「いいこと、坊や。あなたは“生かされてる”って事を忘れるんじゃないわよ」

薄れ行く意識の中、意味深な2人の声が聴覚を犯す。

核心を掴めないまま、オレはここで終わるのか?なんて無力で無能なんだ。ちくしょう、何もできなかった。リトの敵が……リトを苦しめるやつが目の前にいるのに、オレは………、

「…くそっ……」

リト………リト………、




リト……ッ……──────


2010.11.23


prev / next

[ list top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -