ルカリオ夢


「ルカリオ! 波動弾っ!」
「はい、マスター!」

マスターといられる時間なら常に私は満たされている。
野生のポケモンたちは稀に私に問う。
「人間の元で戦わされる事は辛くないのか」と。
しかし、それは愚問だ。私がマスターの側に居られることの価値は、
彼らには想像もつかない程大きい。
そう、私は今幸せ…な、はずなのだが。

「よしっ、今日はご飯食べて寝ようか」
「分かりました、マスター」

マスターの言葉に、薪を集める為に森へ入る。
我々は道のない道を分け入るような旅をしているので、滅多に布団で眠る事は無い。
大抵の場合はマスターがテントを張り、野営をする。
その手伝いをすることも、私の大切な日課であり喜びだ。

そう、私はマスターの忠実なポケモン。
マスターに仕える事が、私の喜び……。

分かっては、居るはずだった。
自分のこの思いが、身の程を過ぎたものだということ。
けれど、止めようと思えば思う程、感情は体の中を逆流していく。
修行を積んだはずなのに、これくらいの自意識のコントロールも出来ないだなんて。
私はまだまだ未熟なようだ。

「ルカリオー? 大丈夫? 探すの手伝おうか?」

遠くからマスターの声が聞こえてくる。
いけない、心配をさせてしまったようだ。

「大丈夫です」と念力で返し、私は薪を拾い始めることにした。




月が、美しい。

夜空を見上げて小さく零す。
今夜の月はとても綺麗だ。
マスターは隣で密やかな寝息を立てていて、テントの固い床に広がった髪が少し艶かしい。
こんな時ばかり修行の成果が現れて、目を閉じていてもその様が頭にありありと浮かんでしまう。
それが嫌で起き出した。
マスターを好きになれば成る程、自分が嫌いになっていった。
鋼鉄島で彼女に会ったその時から、私の自己嫌悪は始まっていた事になる。

「マスター……」

小さく溜息をつき、隣で眠るマスターを見る。
白いうなじ。うっすらと赤い頬。
健康的な足は、長い放浪生活で鍛えられ、決して細くはないがどこかエロティックで……
嗚呼、駄目だ。
小さく呻いて首を横に振る。

―何故、我慢する必要があるの?

不意に、頭の何処かで声が響いた。
困る。そういった言葉で、私を誘惑するのは。
けれど、一度もたげた欲望の首は、決して折れはしなかった。

そうだ、今、マスターは寝ているのだ。

そうっと近づいて、軽く肩を揺すってみる。
起きる気配は、無い。

「マスター……すみません」

そう言って、その頬に小さく、口づけを落とした。
人間は皆、こうして相手と愛を誓うのだという。
マスターは今晩のことは知らない。私がマスターに誓ったのは、忠誠だけだと、
今夜も、今後も、ずっとそう思い続けることだろう。
今日、この場で、私が彼女に心まで捧げた事は、知る由も無いのだ。
嗚呼、でも貴方はそれでいい。その方が、ずっと幸せだ。

再び静かに口づけを落としながら、私は只ひたすら、彼女に謝った。
マスター、裏切りをお許しください、マスター、忠誠をお赦しください。




ミュウツーと違って、ルカリオは自分の欲望に素直になれなさそう。
どうでもいいことでうじうじ悩む残念なイケメン。
リクエストありがとうございました!


(10/08/04)






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