冷戦日和番外編U


「ねえ……聞いてもいい?」

「却下する」

「それを却下」

「断る」

「それを断る」

「拒絶する…」

「それを……」

「うるせえ!」

トラックの運転席から聞こえた声によって、私たちの堂々巡りは強制終了した。
二人して顔を見合わせて運転手を見る。恐らくはまだ下っ端だろう。いきなりこんな大役を押し付けられて動揺していると見える。

「質問を再開するわ。誰のせいでこうなったと思ってる?」

「私のせいだとでも?」

「他に誰がいるのかしら?」

「ハナダの一件で既に判明していたことだが、お前は他人に責任転嫁する才能に恵まれているようだな」

「だったらあなたは差し詰めトラブルメーカーかしら」

「それが責任転嫁だと……」

「黙れッ!」

再び怒声が私たちの会話を邪魔する。正確に言えば、私たちが黙り込んだのは彼の声のせいでは無かったのだが。

「…っ、随分暴力的なご招待よね」

運転席まで聞こえないように声のトーンを落として囁けば、ミュウツーは黙って頷いた。
私たちの手にはそれぞれ手錠がはめられており、下っ端君の持つスイッチに反応して微弱な電流が流れる仕組みになっているようだ。
因みにそれはモンスターボールと同じ効能を持つらしく、即ちどんなポケモンでもその道具の前には無力ということに他ならず…。

「だから、こういう面倒な道具で拘束される前に敵を抹殺しちゃうことぐらい朝飯前だったでしょ全く」

「その件に関してはお前も同罪だ。あの日私が何戦したと思っている。おまけにポケモンセンターでの休息も得られなかったのだ。寝込みを襲われて反応に遅れるのは当たり前だ」

「情けないわね。それでも最強のポケモン?」

「ポケモンのコンディションすら管理できないお前がトレーナーを名乗るのなら、私は最強のポケモンどころか神だ」

「前から思ってたけどミュウツーって……」

突然尾で口を塞がれて息が苦しくなる。何よ、とミュウツーを睨みつければ、彼は溜息をついてこちらを見た。咎めるような厳しい口調が言う。

「少しは学習しろ! 先ほど五月蝿いからと電流を流されたばかり…」

「マジで黙れよお前等!」

ぐっ、と悲鳴を飲み込んでミュウツーの足を渾身の力で踏みつける。
どう考えても今のは彼のせいだ。

「……で、何処までこれを続けるつもりだ」

ミュウツーが苛々と呟く。
これ以上怒らせたら手錠を破壊してしまいかねない。
私はそっと彼に呟いた。

「お願い、もうちょっと我慢して。このままロケット団のアジトに潜入できたら今月一杯はバトルしなくても食べてけるから」

「言ったな。これでアジトに金が無かったら…」

「いいよ私が虫取り大会の賞金で食いつないであげるわ」

「っ、テメエ等、いい加減に…」

トラックが止まった。どうやらアジトに着いたらしい。

「いい? ミュウツー」

小声で呟き、頷くのを確認しながら一歩前へ出る。
後ずさった下っ端に、高らかに宣言する。

「ミュウツーを誘拐して破壊の限りを尽くさせようなんて甘いわね。
さ、金を出せば命は助けてあげるけど?」

ぱりんと手錠を破壊する小気味良い音が響き、下っ端の取り落とした鍵を受け止めながら、私はミュウツーと目線を交えた。







冷戦日和番外編のふたつめです。
1から順に時間軸が経過してます。
今回はロケット団に誘拐される話。
因みにこの後サカキに金庫ごと逃げられて、虫取り大会で喧嘩します。
*さんがミュウツーを虫ポケモンと偽って大会に出そうとしたのが原因です。

リクエストありがとうございました!

(10/7/25)





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