ミュウツー嫉妬夢



*が、グリーンという同郷の男に恋心を寄せているのは知っていた。
人の心を理解することが出来ないと散々言われてきた私だが、彼女が彼のことを話すときに紅潮する頬や、うつむき加減になる視線を見て分からないはずがなかった。
前は時折悲しそうな顔をするだけだったのだが、今となってはそれは顕著で。

「*、*。…指示を出せ」
「あっ…、うん、ごめんね」

溜息と共に紡ぎ出される命令。
私にとって、否、多くのポケモンにとってそれは絶対だ。
しかし、それすらも最近は精度が落ちてきていた。
命令のタイミングは遅く、技の選択にも以前のような鋭さは感じられない。
彼女の強さを信じてついてきたはずなのに、これでは意味がない。

「ごめんね、また負けちゃった」

ポケモンたちを労いながら話しかける彼女の後姿が、酷く小さくて弱い、華奢なものに見えて、突然全身を怒りのようなものが貫いた。
私の感情の起伏を読み取ったのか、脇の他のポケモンが私を見やり、何か言う。
しかし、ポケモンの言葉は人間には通じない。あっけなくボールに入れられるソレを横目で見て、私は*に歩み寄った。

「私は、お前の強さを信じてきた」

*の瞳が揺れた。
どんな言葉を予想しているのかは知らないが、私を見上げる視線を逸らし、
足元のボールを拾い上げる。

「…うん、分かってる。ごめんね。…これ、あげるから」

もう長らく入っていなかったのですぐには分からなかった。
しかし、それは紛れもなく、私自身を捕まえたボールだ。

彼女の言っていることが、言わんとしていることが、分かった時には怒りは絶頂近くに達していた。

「……そういう話をしているのではない」

絞り出した声に*がすくみ上がる。
トレーナーとポケモンという建前を省けば、彼女は圧倒的に無力だ。
それが分かっているのだろう。

「私は弱いお前の元から去りたいのではない。
…何故お前は下らないものに拘る? そのために自らを捨てる?
……何故、あの男にそうまで影響される」

この怒りをどこに向けたら良いのか分からず拳を作れば、脇にあったテーブルがひしゃげた。

「何でも、お見通し…か。ごめんね、本当に、ごめん」

崩れ落ちるように凭れ掛かる*を抱きしめる形で支える。
違う、望んでいるのはこんなものではない。
腕の中で涙を流す彼女を酷く冷めた心持で眺めながら、私はグリーンという男について考えていた。

奴から*を救い出すにはどうすれば良いのか。
否、それとも彼女はそんなことすら望んでいないのか。




私は人間の感情の多くを理解することが出来ない。
しかし、もしも願いが叶うのなら。
こんな醜い感情ばかりではなく、美しい感情を教えて欲しかった。
少なくとも私に身体を預けている彼女の心は、私の知らない美しさで満ちているのだろう。

自分というものが空虚な気がして、思わず私まで崩れ落ちたくなった。









しばらく更新していなかったのでリハビリがてらに。
ツー様に嫉妬していただきました。
嫉妬しているのを表面に出さなさそうですよね、で、一人で悶々とする、みたいな。
リクエストありがとうございました!

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