23:弱虫騎士と悪役少女 3 / 7

「そうやってナイトになってみたいのかしら? いじめられっ子さん」

「いじめられっ子……?」


 今の香月くんに似つかわしくないワードが葛原先輩の唇から飛び出して、私は思わず単語を反復した。
 今、目の前の彼はどんな表情をしているのだろうか。

 何を言っているんだと言わんばかりの怪訝な表情を浮かべているのだろうか?
 それとも。


「金髪にして性格も変えるなんて高校デビューも甚だしいわよねェ」

 中性的な見栄えの彼は、誰の気持ちも読む気さえなさそうに楽しげに笑った。

「何で、」
「あたしの弟、あなたと同じクラスだったの知らないかしらァ? 中学まではあたしも普通の男の子やってたから同じ中学にいたの、気付かなかった?」


 葛原先輩の表情は崩れることはない。ただただ笑顔だ。


「あぁ、そもそも1年生は3年生とあまり交流もないし、知らなかったかしら?」
「何でこんな遠い高校に」

 そんな風に淡々と話していく葛原先輩とは相対的に、香月くんの声はどこか震えていた。彼自身思いもよらなかった事実に、頭が追いついていないのかもしれない。
 私も声を出せば、思い通りの声を出せない気がして。そもそも、何を口にすればいいのかすら分からず口を塞ぐ。


「あなたと同じ、極端な高校デビューのためよォ」


 何わかりきったことを言ってるのかしら、と葛原先輩は笑う。

 香月くんは中学の頃とは大きく変わっていて、その「たかが高校デビュー」と言われそうな事実に、苦しんでいる。

 香月くん越しに葛原先輩と目が合う。彼の表情が、愉悦に歪んだ気がした。


「……嘘つきな子」

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