23:弱虫騎士と悪役少女 4 / 7

 ゆっくりと、先輩の唇が言葉を紡いで弧を描く。
 心底楽しんでいそうな、唇。


「美幸ちゃんも、ひろちゃんも、可哀想ね。信用したって、嘘つきなこの子はハリボテしか見せてきてないのに」


 あぁ、あぁ。
 駄目だ、その言葉は。
 人の名前を、出すような責め言葉は。

 きっと何よりも香月くんの心を抉っていく。

「香月、くん」
「美幸ちゃん、あの、あのね」


 何か、何かを言わなければ。
 そう思うけれど、咄嗟に言葉なんて出やしなくて。震えるような声で、彼の名前を呼ぶことしか出来なくて。

 彼の声は震えていた。
 えへ、と無理に笑おうとする痛々しい震え声だけが、耳に残る。


「おれ……うそつきだぁ……」


 泣き出しそうな声に、唇を噛み締める。
 私には何も言えないのだろうか。
 私には何も出来ないのだろうか。

 いいや、そんなわけない。
 そんなはずないじゃないか。

 私は香月くんの手を掴んで口を大きく開いた。
 彼に、私自身に何かを言い聞かせるように。


「嘘つきなんかじゃない……!」

 そうだ、嘘つきなんかじゃない。
 彼は、嘘つきなんかじゃないんだ。


 周りからみたら馬鹿みたいなやりとりに見えるかもしれない。
 クサイ演技に見えるかもしれない。
 それでもいい、それでもいいから。

 香月くんに言葉が届きさえすれば、いいから。



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