傷ついた

誰が?
誰のために?
誰のせいで?


全部全部全部君のせいだよ
おうじさま





─赤い鍵─
〜go true end?〜









「是非とも可愛い可愛いアリスちゃんを飾りたいわぁあぁははは!うふふふへへふふふ」


痛い。

痛い痛い。

血が止まらない。


貫通した銃弾は逸れて速度を落としてナイトまでは届かなかった。
良かった。


「おい、ナイト……おめぇ止めらんねぇのか!?キングだろ!」

「……キング、?」


ぎゅうっ、とナイトは己の胸を掴む。


「俺、は……」


どうしたのだろう。
動揺したような、彼。

心配したように彼を見ると、ナイトはゆっくりと目を閉じて深く息を吐き出した。

す、と目を開いて公爵夫人を見据える。


「……何故こんなことになっている」

「アリスちゃんがワタクシの鍵を奪おうとしたのよぉ」


「それを寄越せ、命令だ」


ナイトの声が低くなっていく。


「でもぉ……」
「消されたくないなら寄越せといっているんだ!」


突然声を荒らげたナイトに、公爵夫人は体を揺らす。

目を見開いて、カタカタと震えだした。

住人には絶対的権力者だから、ナイトは。
脅してしまえば言うことを聞かせることができるのか。



「も、申し訳ありませんわぁ、どうぞ、どうぞ!アリスちゃん、ごめんなさいねぇ」


ぽん、と宙に現れた、赤い鍵。

手のひら返した公爵夫人はにこにこ笑う。
消されまいと必死なのか、請うような笑顔が向けられていた。


「手当てを……急いで城に戻るぞ」

ひょいと抱き上げられる。

うわぁ、お姫様抱っこ。


「な、ナイト、怪我は腕だから、あの、大丈夫、歩けるよ」
「……嫌なのか?」


“キング”じゃなくて“ナイト”の顔だ。
困ったような、寂しそうな表情を浮かべている彼。

どうしてそんな顔をするの。

「嫌、じゃないよ」


嫌じゃないけど!
恥ずかしいというか、なんというか。


「急いで戻ろうぜ、お2人さん」


ジャックが鍵を手にして呆れたように小声で言う。

私たちは急いで、城へと向かった。







「アリス!血がやばいぞ!」


城に戻るなり黒ウサギが慌てたように手を口へと持って行く。


「黒ウサギ、手当ての道具を頼む」
「おいらに任せとけ!いってきます!」


黒ウサギがどこかへ走っていった。
私に与えられた部屋で、座って一息ついた。

致命傷にはならなくてよかった。


「ナイト」


静かな空間でジャックが声を上げる。

名前を呼ばれた主は、ジャックを見た。
落ち着いたようで、どこか動揺したようなナイト。

どうしたんだろう。
何か、あったのだろうか。


「おめぇ、さっき様子おかしかったよな……何か、思い出したか?」

「……誰かを、守りたかったのに守れなかった」


それを、思い出した。
ナイトは苦しそうに、呟いた。


守れなかった……?


ジャックも私と同じように疑問に思ったのか、考え込む素振りを見せた。

思いついたように、顔を上げる。


「双子の処刑人か?」
「いや……詳しくはわからない」


双子……あぁ、あの。

そうだ。あそこでキングが撃たれた。手を。
今の私みたいに撃たれた。

それで、思い出したのか。



「……これも筋書き通りか、エニグマ」


ナイトの言葉で、後ろから軽快な笑い声が聞こえた。


「ストーリーを確認しながら進むのかい?つまらないだろう?」

エニグマ……


「あぁ、はじめましてかな、ジャック。あたしはエニグマ」


エニグマはにっこり笑顔でジャックに頭を下げる。

ストーリーってどういうこと?
筋書き通りって、何のこと。



「公爵夫人に何か入れ知恵したのか貴様」

「彼女が融通きかずなのは元からさぁ。あたしはただ『絶対的命令があるまで鍵を手放しちゃいけない』と伝えただけさ」


……エニグマのせいなのか、あれ。


「後少しで終わるね、キング」


赤い瞳が私たちを見る。
細められたそれは、獲物を狩るような鋭い目つきだった。


後少しで終わるらしい。


「貴様が語り手だというのならば、物語に干渉してくるのはルール違反じゃないのか」

語り手?

エニグマは処刑人と墓守じゃないのか。
混乱しそうだ。


彼女はナイトを見てからからと笑った。


「語り手の前にあたしは墓守で処刑人だろ。物語に関わって何が悪い?」


「救急セットォー!……ありり?なんだぁこの空気」


黒ウサギが空気をぶち壊して現れる。

ありがとう、と黒ウサギに礼をした。



「あたしへの話は終わったみたいだね?じゃあ仕事に戻るよ」

手をあげて挨拶したエニグマは姿を消した。


「黒ウサギ、礼を言う。仕事に戻ってくれ」


ナイトの言葉に、黒ウサギも渋々部屋を出て行った。


腕の治療をして、ナイトははぁと息をついた。


「ナイト、大丈夫?」

動揺したような彼をこのまま赤の部屋に連れて行くのはまずいかもしれない。

自分が死んだ記憶を取り戻すかもしれないのだから。
衝撃がでかすぎるかもしれない。



「……今日は休んだほうがいいかもしれねぇな」

「いや、大丈夫だ」


頭を押さえて、ナイトは床から私とジャックに視線を移す。



「……その鍵、何かあるんだろう?」



察しがついていたのか。
まぁ、記憶探しをしているのだから、それに関することだっていうのは当たり前か。


「それが、記憶に関するものなら、早くそこへ行こう」


あぁ、彼も

「俺は早く、記憶を取り戻したい」


記憶がないことが、怖いのか。
早く、思い出したいのか。



「おめぇが大丈夫なら、行くか」


ジャックが、心配したような声色で声を紡ぐ。

行ってみよう。


赤の部屋へ。


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