どんな結末を選んだっていいよ
貴方方のお好きなように
だけど、だけどね
結局ハッピーエンドなんてありゃしないのさ
─語り手狂言─
〜Ending does not change〜
──貴方はどうしたい?
目の前の男が静かに問いかける。
赤い。
赤い赤い赤い。
血の色に染まった男は、静かに笑っていた。
俺は、思い出したい。
彼女を──アリスのことを。
そう小さく告げると目の前の男は満足そうに笑った。
目の前の男は……笑ったまま己の体を大きな太刀で貫いた。
夢であろうそれはわけがわからなくて。
ただただ、気味が悪い。
なんでかといえば……彼は自分自身に似通った容姿をしていたからだ。
自分とは色は正反対で、黒がメインの服を身につけていた。
黒に赤色がやけに映える。
貴様は誰だ。
──私は、貴方です。
俺?
わけのわからない男が、手を横に上げる。
世界が反転して、静かな世界に落とされた。
真っ暗な世界。
泣く少女。
あぁ、アリスが泣いている。
名前を呼んでも、声を掛けても。
彼女は反応なんてしない。
たくさんの死体の中で、声を上げて泣くだけだった。
「──キング」
名前を呼ばれて目を覚ます。
目の前には長身の女、エニグマが読めない笑顔を自分に向けていて。
「……アリスは」
「出掛けたさ、ジャックと共に……あぁ、アリスはキングを置いていったんじゃなくて、寝ていたから起こすのは悪いって、言っていたから」
それはわかってほしい、とアリスが言っていた。
そうエニグマはにへらと笑う。
「どこに出掛けた」
「チェシャ猫の所さ」
あの夢は、
ただの作り話か。
過去の彼女か。
それとも──
「あぁ、でもそろそろ……公爵夫人の所に行っているかもしれないね」
予知夢、か。
「……どうしてそう言える?」
「そういうストーリーだからさ」
からからと笑う女。
「物語なのさ、全部全部」
「物語の謎が“エニグマ”なら、回答を知っているのも“あたし”だろ?」
「アリスとジャックはチェシャ猫に『大切な手がかり』は公爵夫人が鍵を握っていると教えられる。
彼女らはキングのために公爵夫人から鍵を頂戴しようと試みる。
鍵を守る“役”に徹する公爵夫人は──アリスに拳銃を向けたのだ。」
つらつらとエニグマは言葉を並べた。
物語のあらすじのような単調な説明文で、アリスがあっという間もないくらい短い間で、死に至ろうとしていた。
「──アリスは白ウサギが黒幕だと思ってる。彼女もまた、可哀相な1人の登場人物さ」
「お前が黒幕だとでも言うのか?」
「あたしはただの“墓守”で“謎”で“処刑人”で……“語り手”なのさ」
ライターはもういない。
彼女はもう、この世界にはいないのだ。
「執筆者を失った物語なんぞ、ぐちゃぐちゃで、矛盾だらけで、方向性なんて失ってるんさ」
エニグマが笑顔で、俺を見た。
彼女はどこか寂しそうで、それでいて楽しそうだ。
「だから唯一謎と回答を知っている“語り手”がエンディングまで導いてあげよう。結末を変えるのは貴方方登場人物のお好きなように」
くすくすと笑う。
エニグマは、つ、と自分の口の前に人差し指を持って行ってゆっくりと。
ゆっくりと口を開いた。
「いいのかい?公爵夫人は容姿以上に厄介で面倒くさい。キングも知っているだろ?」
――そろそろ彼女がアリスの前に現れるぞ。
あたしの相手をしている暇はないんじゃないかな?
エニグマの言葉に俺は足をゆっくりと動かした。
部屋を飛び出して、少しずつスピードをあげていく。
あいつには後で問い詰めればいい。
今は、公爵夫人だ。
あいつは想像以上に融通が利かない。
面倒くさいほどに一途。
公爵夫人の家まで急いで走っていく。
もうすぐだ。
狂ったような笑い声が聞こえてくる。
気味の悪い、女の笑い声だ。
「……っ、アリス!」
間に合った。
何もなかったようで、怪我もないようで安心する。
はぁ、と息をつく。
顔を上げた瞬間、目に入ったのは──アリスの腕だった。
銃声が耳に届く。
彼女の呻き声が聞こえてきた。
「アリス!」
ジャックの動揺した声も響く。
どうして。
どうして俺なんかを庇ったの?
俺のために怪我なんてしないでほしい。
「キ、ング……?」
私は、貴方を守るための存在だったんですから。
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