あたしにできるのは

奪うこと

見送ること


ただ、それだけさ




赤塗れの女
〜The Boondock Saints〜





ピエロのような尖った靴を履いた女がゆっくりと音を立てて歩いてくる。

彼女は私に気が付いて、顔についた血を拭ってにこりと笑いかけてきた。



「あぁ、アリス、帰ってきたの」


彼女、エニグマは何もなかったかのように私に近付いてくる。


「何か手がかりは見つかったかな?」

「……少しだけ」

「そう、それはよかった。白ウサギも困ったもんさ」


やれやれ、と言わんばかりに彼女は目を伏せる。
笑顔が崩れない彼女は見ていてどこか怖いものがあった。


初めて会った時から、怖いとは思っていたけれど。


キングは?と問われて部屋に戻ったと告げる。


そう、と返ってきたので恐る恐る言葉を出す。



「……エニグマって、何の仕事してるの?」


その血も“仕事”に関係しているのだろう。
彼女は目を細めて笑う。


「ヒトゴロシ」


残酷に、笑う。


目を見開いた私を見て、彼女は楽しそうに、軽快にからからと笑いだした。


「そんなに驚くことはないさ」


腹を抱えて笑うエニグマの声は広い廊下に響く。


何を笑っているのか。

怖いの?
そんなことを問われて、当たり前だと内心悪態をつく。


それはあっさりバレていたようで、エニグマは首を傾けて、鋭い目を細めた。


「──君もやったことなのに?」


あぁもう、やめてくれないか。
もう、もうしないから。

やりたくもないから。


彼女はせせら笑って私を見貫く。


「あぁ、違う。君も“やる”ことなのに」


疑問ではなくそれは断定で。
過去ではなく未来を指していた。


「……私は人を殺したりしない」

「そう、そうなるといいけど」


楽しそうにエニグマは笑う。

笑顔を崩さない。



「あたしだって誰彼構わず殺してるわけじゃないさ」

墓守だけでなく処刑人を兼任していて、世界を乱す不穏分子を消している、だとか。


エニグマは当たり前のように言葉を吐き出す。


「君がこの世界に染まらないことを祈っているよ」



彼女は卑しく笑って、歩き始める。

コツコツと高らかな音を響かせて、私に背を向けて。


……私はヒトゴロシなんてしない。

「するわけ、ないじゃない……」


だけど、もし。

もしあの時みたいな惨劇が起きたら。


私は本当に

──人を殺さない?


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