──さぁ、時は満ちた


舞台は整った




役者を揃えようじゃあないか



道に迷わないで
一直線に


さぁ、おいで!
 



新しいゲームを始めよう!







―Red→Blue―
〜King〜










勉強は苦手だ。



スポーツもそこまで好きじゃない。

そこそこ運動神経はあるが。





「ばいばーい、歩!」

「また明日」



3年生になってクラスが同じになった楓と駅で別れ、彼に手を振って家の方向へ歩き出した。




俊介は双葉と仲良く帰りを共にしていた。

……まだ付き合ってはいないみたいだけど。



お兄ちゃんはサークル活動だろうか?

それとも、融さんに捕まっているのか。



わからないけど、あの2人は仲が良い。



エース。
ジャック。
10番目のアリス。
ジョーカー。
キング。




もう、2年前の春から夏にかけての出来事だ。




“ワンダーランド”




ファンタジックな世界に、私たちはいた。


そこで、生き残りゲームをさせられた。




私と俊介だけ記憶が残っているのが不思議だけれど、無事に元の世界に戻ってきて。



……1人を除けば、みんな幸せそうなのだ。






「……はじめ、さん」



ナイト。


融さんの知り合いだったであろうその人は、姿だけでなく存在していたことすらなかったことになっていた。



おそらく、クイーン……1番目のアリスも。


名前がなければ消える、と白ウサギは微かに言っていた。





彼らは、消えてしまったのだろうか?








「ナイト」




今度は彼の呼称を呟いて。


冷たい秋の風に身を強ばらせながら家へと向かった。
















「……君は、その人に会いたいの?」











「あー、疲れた」


家に帰るなりベッドに身を投げた。




体育2時間の後の数学はきつい。


眠たくなる。





ふあ、と欠伸を漏らしてうとうとし始める。


まぶたが下がってくる。




……まだ家族は誰も帰って来ていないし。
少しだけ、寝てしまおう。











次に意識を取り戻したときに耳に聞こえてきたのは風を切る音だった。


下からやけに風を感じる。




……下から風?



ゆっくりと目を開けると、目に見えたのは、壁。



暗い。


私は今






穴のような所をひたすらに落ちている。





「はぁぁあぁ!?」




女らしさなんてこれっぽっちもない叫び声をあげると、近くにいた少女が笑い声をあげる。





ツインテールの白髪。

赤い、目。




見覚えのある少女は、どこも変わっていない。




「しっ、ろウサギ……!?」

「やぁ、久しぶりアリス!」



懐かしい呼び方だな。

アリス。




「何で!?てかまず落ちてる!何これ!」






白ウサギはくすくす笑って楽しそうに両手を上に上げた。



少女は落下していることを全然気にしていなかった。






「穴から落ちた方が不思議の国らしい。そう思うでしょ、アリス!」


「この落下速度はおかしい!」



ビュンビュンというレベルじゃないか!



ようやく、黒以外が目に映った。





緑。

前と同じ。



森?




ちょっと待て待て待て待て待て!


このまま落ちたらぺちゃんこだ。




死ぬ!?





少女は華麗に着地した。
私は醜く落下した。


うぐ、と何かが潰れたような醜い声が出る。





「到着!ようこそアリス、ワンダーランドへ!」





ワンダーランド。

2年前の悪夢。
嫌な思い出達が蘇る。




最近は失踪事件はそこまで注目されてなかったはずなのに。







「この世界は、消えたはず!」

「でも僕は消えられないんだよ、アリス」


にやにやと笑う白ウサギ。




「新しいワンダーランドの初御披露目さぁ!」





新しい、ワンダーランド?


初ってことは、私以外にリアルの人間はいないのか……?



「何で、また私なの……?」

「君に会いたがっているからさ」



誰が?

白ウサギが赤い目を細めてくるりと体の方向を変えた。


「君も会いたかったんでしょう?」

「私はこんな世界に求める物なんてない」

「さぁさぁ!そんなことより国の統治者に謁見しよう!会いに行こう?」




……クイーンがいるのか。


それは、白ウサギの探していたクイーンなのか。
消えたと思っていた、1番目のアリスなのか。


私にわかりはしないけど。




しばらく白ウサギについていき、歩みを進める。

……帰りたいけど、帰る術がないのは同じなのかもしれない。
少なくとも、ここら辺に帰る術はない。




水晶を見つけて、壊す。

それしかない。




なら、その統治者さんの所に行くのが手っ取り早いと考えた。












見覚えのあるハートの城。


世界はどこか、見覚えがある。


……というか、ほぼ一緒。前回のワンダーランドと一緒。




壊れた世界を再建するなんてよくやる。




「さぁここにいるよ」





中に入って大きな扉の前に立たされた。


赤い城に似合わない、真っ青な扉。





「キング、アリスを連れてきたよ」



……キング?


思い浮かんだのは、あのアホっぽい迷子さん。
そう、融さん。



「入れ」




懐かしく思える声。


開いた扉の先にいたのはあの人だった。




髪型が変わっていた。

表情を失っていた。

服装も、違う。

優しさなんて微塵も感じられない。




それでも、わかる。


声。
髪色。

何より、一緒に過ごした日々が、私に教えてくれた。






「ナイト……!」






優しい騎士の格好をしたトランプ兵さん。


ナイト。





ゆっくりと駆け寄ると、ナイトは手を広げて私を見る。





表情のない顔が、怖く思えた。






「来い」





敬語じゃなくて命令口調なのは謎だけど。


手を広げてるのは何ですか。


抱きしめてくれるのですか。
再会のハグですか。




……元気がないから笑顔が見れないのだろうか。

歩ちゃんがエールを贈ってあげましょうか?





手の届く距離まで近付くと、手を強く引かれて抱きしめられた。




「アリス」





力強い。


表情は見えないけれど、声に感情がない。




……怖い。


あの優しいナイトが、すごく怖いよ。





「会いたかった」




ありえないくらい、絞め殺されそうなくらい力がこもっている。


ちょっと、弱めてくれないかな。




私も会いたかった、だなんて言葉を言おうとした。



だけど、彼の方が口を早く開いた。






「俺の愛おしい、アリス」







その言葉と同時に私に広がったのは、背中の痛み。



「……っ!?」


力が緩められた。



死んだような目の先には、ナイフ。




袖に隠し持っていたのか。


ナイフは地面に投げ捨てられた。



それには、赤い血が染み着いている。


おそらく、いや絶対、私の血。





背中からじわりと痛みが広がる。






ナイトに傷口を強く押されて、私の体は痛みで跳ねた。





「……あぁ、今度は本物か」






指についた私の血を舐めとって、彼の瞳は白ウサギへと向いた。





「やだなぁ、今までのはちょっとした遊びじゃない!キング!」



……私の偽物がいたってこと?



というか、キング。

ナイトが、キング?





嘘だ、嘘。



ナイトはこんなこと、しない。

ナイトだと思ったけど、違うのかもしれない。





躊躇いもせずに人を刺したりするはずない。



私はゆっくりと、彼から離れようとした。



……けれど、手首を力強く掴まれる。

青年の目を見て、口を開いてみる。




「あなたは私を知っているの?」



光のない目が私を映す。



「知らないな」





感情も込められず、起伏なく言葉は吐き出される。


知らないのに愛おしいとか言っていたのか。





この人は、ナイトじゃない。




私を知らない。



「そっくりな、別人……?」




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