「言わない、ですけど……どうしてせっかく作ってくれた物を捨てるんですか?」
「気持ち悪いからだよ」
「え……?」

「外食料理ならいいけどさ……知らないいち生徒がくれたものなんて気持ち悪くて胃に入れたくないんだよね。でも弁当箱、洗って返さなきゃいけないし」


 笑顔を、崩さない。
 それが、酷く冷めて見えた。

 昼休みに別館に向かう人はいないのか。人は誰も、通らない。


「でも、相川先輩は……昨日普通にお茶、受け取ってくれました」


 お茶は手作りじゃないから構わないのかもしれないけれど。
 それでも笑顔で、ありがとうって、受け取ってくれたんだ。
 今みたいな作った笑顔じゃなかった気がしたんだ。

 ふ、と表情を見るとさっきの笑顔とはいっぺんして、冷めた表情になっていた。
 ……私、まずいこと言った?


「……あぁ、昨日の。部活ジャージ着てないからわからなかった」


 顔覚えられてなかったみたいだ……
 まだ日にちが経ってないから、とかじゃなくて。口ぶりからして覚えるつもりがない、ようで。

 お弁当袋を鞄に詰め込んで私を見下すように睨む。


「運動中にカフェインって良くないんだよね。ウーロン茶ってカフェイン入ってるんだよ、知ってた?」


 ……選択ミスだった。
 つまり、飲んでいないということか。

 今のお弁当と同じような末路を辿ったのかもしれない。


「じゃあね」



 私の存在に気にもとめないような態度で、相川先輩は私の前から消えた。


 部活中の優しい相川先輩。
 さっき雑誌で見た真剣な相川先輩。
 今の……冷酷な相川先輩。

 どれが本当のあなたなのでしょうか?


 会って日にちがそんなに経過していない私には、わかりません。
 気になってしまうのはきっと、そんな変化の多い人目を引く存在だから?


 ……だけど。

 あの日に見た、私の心を奪うほど綺麗に跳んだ先輩は
 偽物ではなくて、本当の先輩なんだって

 信じたいんです。



(act1 end)

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