……お弁当の、中身だろうか。


 可愛らしいお弁当箱は、おそらく先ほどの女の子が渡したものだろう。

 え、何で?
 何で何で何で?


 今、捨てた?

 落としたとかじゃない。
 蓋を外しているんだから、明らかに故意的だ。


 わざと、中身を
 ……ゴミ箱に、捨てた?



「せん、ぱい……?」


 私に気付いた相川先輩が、笑顔になる。
 笑顔になる前の冷めた顔が幻だったのかと思えるほど。

 優しそうな笑顔が、今はあからさまに作った笑顔にしか見えない。


「どうしたの?」
「今、お弁当……捨てました?」


「え? あれ? ……見てた?」


 否定もせず、ただニッコリと。
 目の前の男性は、笑う。

 何これ。
 相川先輩は、優しい先輩。

 優しい、先輩?


 空っぽになったお弁当箱に蓋をして、お弁当袋にしまい込んだ。


「それ、人に貰ってたやつですよね?」
「うん、そこから見てたの? やばいなー見られてたなんて……ね、誰にも言わないでね」


 俺、いい人で通ってるから。
 そう、淡々と笑顔で吐き出した。

 そうだよ、いい人。
 優しい先輩。

 なら、じゃあさ。
 目の前に立ってる、お弁当を捨てたのは誰なの?

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