……本人に聞くと「そんなことしなくていい」って言われそうだしなぁ。
とりあえず、
「春樹さんの好きなものって何ですかね?」
春樹さんの方を聞いてみよう。
「酒」
即答ですか。
お酒。
私買えない、未成年だもの。
……刹那さんに代わりに買ってもらえばいいかな。
「酒屋に行きませんか?」
酒屋?
そういうと飲みに行く場所みたいだな。
お酒屋さん?
「あのバカに買ってやる必要なんてないからな」
バレますよね。
「……でも、初めてのお給料は、自分のためじゃなくて人のために使いたいです」
私の恩人である、2人のために。
私の言葉に、刹那さんは溜め息を吐いた。
苛立ちや呆れたものではなく、優しい溜め息。
「そうか」
お前がいいならそれでいいけれど、と歩き始めた。
こっちに酒屋があるのか。
私は刹那さんの後を歩き始めた。
酒屋でそこそこ値段のするお酒を購入。
美味しい、らしい。
未成年の私にはわからないものだけど、刹那さんが言っていたからまぁ大丈夫だろう。
「春樹さん喜んでくれますか?」
「あぁ、すごく喜ぶよ。そんないい酒あいつ滅多に買えないから」
質より量だから、と安いものを大量購入しているからだとか。
うぅん、私もどちらかといえば質より量派かな。
刹那さんには何がいいだろうか。
……思いつかない。
「……刹那さん、何か欲しいものとかあります?」
いいや、聞いてしまえ。
バレたし、お前がいいならいいって言ってくれたわけだし。
「俺は、それかな」
そういって指を指したのは私が抱えていたお酒。
春樹さんに向けて買った、お酒。
……刹那さんもお酒ですか?
さっき言ってくれればよかったのに。
……いや、言わないか、普通。
「もう1つ買ってきます」
「あぁ、いや、そうじゃなくて」
お酒の入った木箱を人差し指でとんと突いて私を見た。
「これ、2人で1本もらうから」
「でも」
「それで充分だ。自分のものは見なくていいのか?」
「私のものは、いいですけれど……」
私が納得いかないんですけれど、だなんて言葉に出せぬまま腕を引かれて。
兵士がたくさんいる大きな「家」まで半ば強制的に帰宅。
時間はもう夕方で、仕事から戻ってきた兵士さんたちが玄関に向かっている。
服は血塗れで。
あぁ、やっぱり抗争中なんだ、なんて。
春樹さんは土まみれのところは見たことあったけれど血がついてることなんてなくて。
刹那さんはすぐに着替えているのか会うときにはラフな格好だから。
こんな姿を、見たことがなかった。
「――あぁ、悪い。タイミングが悪かったな、嫌なもん見せた」
刹那さんは苦笑するように微笑んで玄関へと早足で進む。
私の手を引っ張って。
「俺は少し党首に用があるから。お前は部屋に戻ってろ」
「はい、わかりました」
刹那さんと別れて1人で歩く。
食堂で働き始めてから話せるようになった人がいくらかいて。
まだ、1人で歩くことへの抵抗が小さくなったと思う。
春樹さんの部屋へと向かう。
大きな木箱を持ちながら。
ノックをすると、明らかに「今起きました」と言わんばかりの格好をした春樹さんが部屋から出てくる。
「あへぇ、お嬢ちゃん?」
あくびをしながら私を見ていた。
私は大きな木箱を春樹さんに差し出す。
春樹さんは頭を掻きながら、首を傾けた。
「いつもありがとうございます」
「えっ、え?何々、プレゼント、的な?」
驚く春樹さんに首を縦に振って肯定する。
「うわー!そんな感謝されるようなことしてないのに!ありがとう!」
笑顔で春樹さんは受け取ってくれた。
木箱を開けて、お酒を目にしたとたん目が輝く。
これ好きなんだよね、あまり買えないけど!と嬉しそうに表情を緩めた。
喜んでもらえてよかった。
「刹那には何あげたの?」
自分にあげているのなら刹那さんにもあげているだろう、ということか。
その言葉に私は俯いた。
春樹さんは再び首を傾けた。
「贈るつもりだったんですけど、2人でお酒1つで充分だと言われて」
「これ、俺と刹那に、ってこと?」
「はい、そうです」
考えるような表情を見せる。
「でも、お嬢ちゃんは別々に贈りたかったんだよね?」
私はその言葉に頷いた。
よし、と春樹さんは笑って部屋のドアを閉める。
少し待っててね。そう言って数分、すぐに春樹さんは私の前に現れた。
格好が変わり、綺麗な私服で身を包んでいた。
「俺と買い物行こっか!刹那にバレないように!」
サプライズで買おうということだった。
刹那さんにバレないように街へ行き、プレゼントを買ってくる企み。
「迷惑じゃないですか?」
「いやいや、嬉しいって、俺もうれしかったし!お金は……給料でたの?残り大丈夫?」
「はい、まだ結構残ってます」
「自分の分もちゃんと取っておくんだよ」
お礼を述べると、
いやぁ、俺の酒の配分が減るのはかなわないしね。
そう言って春樹さんは笑った。
今度は春樹さんと、家を出て街へと向かった。
「……刹那さんに何を贈ればいいんでしょう」
好きなもの……本、とか?
結構本あったし。
個人的には救急セットとか贈りたいけど、絶対嬉しくない。
「あいつ、好きなものとか、ねぇからなぁ」
春樹さんでも知らないのか、何が好きとか。
というか、ないのだろうか。
やっぱり本。
でも、本って好みが分かれるから下手に買えないんだよね。
専門書っていまいちわからないし。
春樹さんは周りを見渡したあとに「おっ」と声をあげた。
「ああいうのいいんじゃない?」
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