指を指した先にあったのは、アクセサリーショップだった。





「あいつ、飾りっけないしさ」



アクセサリー。

……それも好みが分かれそうだけど、でも本よりはいいかな?



うん、刹那さんはゴチャゴチャしたのよりもシンプルなものを好みそうだ。



そしてシンプルなものの方が似合いそう。




アクセサリーショップに近付く。


きらきらと光るシルバーアクセサリーが綺麗に思えた。


見ているだけでも幸せになれそう。



春樹さんも、楽しそうに並べられた商品に目を移す。





ネックレス、は違うよね。
というか、ドッグタグとかいうやつを付けているから邪魔になるだけか。


指輪……恋人に贈るイメージだ、なんか違う。

そもそも邪魔になるかな。




「あー、あれとかは?」


悩む私を見て、苦笑して。


春樹さんは私の前を指差した。




たくさん並んでいる、ピンのようなもの。



……ヘアピン?

ではないや。
なんかチェーンみたいなのついてるし。



ひとつひとつが丁寧に箱に入れられていて、なんだか上品に見えた。





「あれは……?」

「ネクタイピンだよー。刹那、仕事中はネクタイ結構つけてるし」



あぁ、なるほど。

いいかもしれない。



ネクタイピンが並んでいる棚に近付いて色々見比べてみた。





ゴテゴテしてないやつがいいな。




シンプルなの。

高すぎると受け取ってもらえないだろうから、安すぎないものにしよう。




ふと目が留まったのは斜めにラインのような溝が入っているものだ。


あれかっこいいな、なんてそれに顔を近付ける。



お値段も妥当的だ。





「これ、どうでしょう」


「あ、いいねそれ」


かっこいい、と春樹さんは笑う。




よし、これにしよう。


お店の人に頼んでそれを棚から出してもらい、お金を払う。



小さな箱に収められ、小さな紙袋に入れられたそれを眺めながら、満足がいったというように私は笑った。




悪戯をした子供のように春樹さんは楽しそうだった。




「刹那、びっくりするぞー」




家へと向かう。

日はだいぶ落ちていて、空は赤から深い青へと変わっていた。




こんな暗い中、戦ってる人は大変そうだな。



……親が殺されたのも、このくらいの時間だったっけ?








刹那さんが助けてくれたのも、このくらいの時間だということか。




「おい」




家にもう少しで着くというところで、後ろから低い声が聞こえた。



あれ?




「刹那さん?」



何故うしろ……街の方から?



「また出掛けてたのか?……春樹、エリカを変に連れ回すな、悪影響だ」

「うん?それって俺が悪影響ってこと!?」

「違うのか?」

「違うんじゃない!?」



刹那さんの言葉にきぃきぃと春樹さんが文句を飛ばす。


刹那さんはうざったそうに指で耳を塞ぐ。




「冗談だよ。だけど街だからといって確実に安全なわけじゃない。丸腰でエリカを連れ回すな」

「連れ回したんじゃありませんんー俺がお嬢ちゃんに連れ回されてたんですぅうーぴっぴろぴー」


まぁ……間違ってはいないけど。


私の用事だから私が連れ回した、といってもいいだろう。


ぴっぴろぴーって何なんだろう。

なんか無性にいらっときた。




それは刹那さんも同じようで、上着に隠していたらしいハンドガンを春樹さんに突きつけた。





ふふ、と言葉だけで笑う。

目は死んだような、馬鹿にしたようなものだった。



「うぜぇなぁこいつ」

「ごめんなさい!!タスケテ!」

「おらぁヘッドショット!」



ばーん!と言葉に出して刹那さんは銃の引き金を引かず頭に突きつけていた銃口で春樹さんを小突いた。


小突いた、というには勢いが良かったけれど。


春樹さんはわざとらしい悲鳴を上げながらどさりと土の上に倒れた。





何なんだ、子供かこの人たちは。


珍しく楽しそうに「ははは」と笑って刹那さんはハンドガンをしまった。





楽しそうだなぁ。



「……で、何でまた街に行ってたんだ?」



刹那さんは首を傾ける。



あ、と私は声を上げた。


思わず後ろに隠した小さな紙袋に意識を向ける。




今、渡しちゃってもいいかな?




そう思ったとき、春樹さんが家を指差した。



「いやいや、取りあえず家に帰ろう!家の近くだからって百パー安全なわけじゃねぇしさ!」



その言葉に軽く頷いて、私たちは家の中へと入った。





そして当たり前のように刹那さんの部屋へと向かう。




刹那さんの部屋に入って、隠していた紙袋をその人に渡す。



「これ、どうぞ」




刹那さんの瞳はまん丸になった。


それを見て、隣にいた春樹さんは楽しいのか嬉しいのか、浮ついた声色で「ふへへ」と笑い声を漏らす。




「……いいと、言っただろ」



少しだけ、呆れたような声。


「私が渡したいんです。だから、受け取ってください」



貢いでいるようだ。

いや、そういうわけじゃないけど。





折角だし、2人に対する感謝の手紙も書けば良かったかな。

いや、それは恥ずかしい。





受け取ってくれた刹那さんはそのままベッドへと座り込んだ。



小さな紙袋から箱を取り出して、ゆっくりと蓋を開いた。




「これ、何だ?」



きらりと光るネクタイピンの箱を片手に、私を見る。




「ネクタイピンです」


へぇ、とおもしろそうにそれを見ていた。



「こんなもんあるんだな」


「刹那、お洒落とか興味ねぇもんな。少し飾れよ」



春樹さんが苦笑しながら呟いた。




「ありがとな」






刹那さんがこっちを向いて、笑った。



今はネクタイじゃないから、今度使う。そう言って箱を丁寧にベッドサイドのテーブルに置いた。




……うん。

そして、聞いてもいいのかな?



「刹那さんも、街にまた行ってたんですか?」



街の方から、来てたよね?

党首に会いに行くからーって別れたと思うんだけど。




あぁ、と思い出した表情を浮かべて、ポケットから何かを出した。



「ほら、やる」




ぽん、と上向きに投げられたそれは私の元へと飛んでくる。


綺麗に飛んできたので落とさずにキャッチできた。




濃い青の箱。


開けると、そこにはネックレスが入っていた。




向日葵のような形。

花びらがひとつだけ黄色いストーンで輝いていた。





「え」


「何が良いとか、よくわからないが」



刹那さんは視線を逸らして頭を掻いた。



何だか、悪いな。

私は何かを貰うようなことをしていないのに。




戸惑っていると刹那さんと視線が交わる。




「エリカ、お前さ、これを突っ返されたら嫌だろ?」

指したのはネクタイピンの入った箱だ。

返そうとは思わないけど、と付け足す。




私はその言葉に頷いた。




「それと同じなの。だから、遠慮せずに持っとけ」

「モノが嫌なら文句言っちゃえばいいよ」

「そうだな。したら次は春樹の金で高いやつを買うとするか」



箱の中の可愛らしいネックレスに目を向けた。




「頑張ってるご褒美ってことで」


笑う刹那さん。



「ありがとうございます!」




嬉しくて。

箱を持つ手に力を込めて、お礼を言った。





タイミングを見計らったかのように、お腹の音が響いた。




その犯人の春樹さんは「てへ」と笑ってお腹を押さえる。




「飯行こうぜ!」


「そうですね、行きましょう」




刹那さんがふにゃと笑って立ち上がった。




「そうだな」





いつものように、3人で食堂へと向かった。






何だか今日は、

いつもより笑顔を見れた気がする。


貴方のために、贈る


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