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ハロウィン(経流背、アフロディ)

■パーティの準備(経流背)


アリスちゃんは可愛い。

アリスちゃんとは世宇子中サッカー部の後輩で本名は経流背 有殊君の事。
行動を見ていると普通に男の子だしサッカーしている時は恰好良いけど、
長い三つ編み、はっきりとした瞳、何といっても名前の響きが可愛いので
私が勝手にアリスちゃんと呼んでいる。

心の中で。



「名字さん、このお菓子はどこに置くんですか?」
「あ、キャンディーレイは飾るから梁の所にかけるの」
「俺がやりますよ。名字さん、脚立あっても届かないでしょ」
「経流背君の方がちょっと背高いもんね、じゃあお願いします」
「ちょっとは余計じゃないですか」



少しむくれながらも脚立に登るアリスちゃん。
私達が何をしているかと言うと、近年一大イベントとなったハロウィンパーティの準備だ。
本当はもう少しだけでも部活をしたかっただろうに、飾りつけが私一人だと大変だろうからと言って買って出てくれた。
(何て良い子だと感動して、後で何かお菓子をあげると決めている。)


パーティは児童館へ通うに小さい子達に、奉仕活動の一環として
世宇子中が行なっていて、雰囲気の為に私達も仮装する割と大掛かりなものだ。
因みにアリスちゃんはあみだくじで魔女になった。

くじ運のなさに絶望していたけど、他のラインナップも似たようなものだと諦めたらしい。
紫と黒の服に、橙の髪…色合いもバッチリだと思うけどな。


脚立に登ったり作業する度、とんがり帽子から見えるふわふわの三つ編みが上下に揺れる。



「…よし、こんな感じか。ったく、この衣装裾が長くて動きづら…っ!?」
「っ!!」



ガタンッ!ドサッ!!バラバラバラ…
脚立が手前に大きく揺れて戻る。
追って、キャンディーレイが千切れて落ちると乾いた音が床に響く。



「ぁ痛ー…」
「っ名字さ…!」
「はっ、アリスちゃん大丈夫っ!?足捻ったりとかしてない!!?」
「アリ…!?」
「あっ」



脚立の上で服を踏んだアリスちゃんはバランスを崩した。
床に叩きつけられそうになったけど、間一髪、私のフォローが間に合った。
脚立も追いかけて倒れてこなかったのは幸いだった。良かった。

…気が緩んでうっかり心の呼称で安否確認をした以外は。



「ごっ、ごめんねアリスちゃ…じゃなかった経流背君!!
 これは何というか言葉の綾で…名前可愛いからつい…!」
「なっ…男が可愛いとか言うな!…あ、いや、…言わないで下さい…!
 そ、それより名字さんこそ怪我とか大丈夫なんですか!」
「あ、うん私は大丈夫…ちょっと背中痛いけど頭は打たなかったし」



私の答えを聞いて少しホッとした表情になるアリスちゃん。
肩を落とすといつの間に滑り込んだのか、衣装の皺の間からキャンディーがコロコロと落ちてくる。
そして私のおでこにコツンっと当たってまた床に落ちる。



「あいたっ…はは、びっくりした〜魔法で出したみたい。
 さすが魔法使い…ほら、帽子にも挟まってる」
「下敷きにされてよくそんな暢気でいられますね…」
「へへ、アリスちゃ…んじゃないや、経流背君が無事だったから良いかなって。
 可愛い後輩が怪我したら嫌だもんね」
「っ」



ビクッと驚くように反応してから、顔を手で覆う。
何かあったのか心配して聞いても何もないと言うし、どこか痛いのと聞いても違うと答えが返ってきた。
起き上がって様子を伺おうかと身を起こそうとすると、やっとアリスちゃんの手が顔から離れた。



「…名字さん」
「うん?」
「俺、…俺、前からアンタの事が…」
「…?」
「俺の事、もっとちゃんと男として見て下さいよ…!」



アリスちゃんの顔が近づいて来て、視界いっぱいに広がる。
えっ、コレはもしかしてキスされかけて…?どっどうしよう私そんなの初めてなんだけども…!?



バサっ



「んむっ」
「…、…」



アリスちゃんのキスより先に、私の口に落ちて来たのは彼のとんがり帽子で。
恰好付かないと思ったのか彼は耳まで真っ赤になって、今度は頭を抱える事となった。



「いや、あの…、か、可愛いオチだったと思うよ?」
「嬉しくない!!」














■ハロウィンの後で(照美)




「盛り上がったね、ハロウィンパーティ」
「喜んでもらえて僕らもやった甲斐があったというものだね」
「照美君の天使の仮装、凄い好評だったもんね」
「保護者の方にもあそこまで大袈裟に褒めて頂けるなんて、
 光栄ではあるけれど…少し恥ずかしかったな」
「拝まれてたもんね」



世宇子中がボランティアした子供達へのハロウィンパーティは大盛況に終わった。

お菓子が途中でごっそり消えたり、部員の仮装で幼い子が泣いてしまったり
子供達とミニゲームをしたりとハプニングあり、楽しさありの内容の濃い1日だった。

ただ、盛大だった分片付けは一苦労で帰路につけば日はとっぷりと暮れてしまっている。
チームメイトもパラパラと別れ道で解散し、今は亜風炉と2人である。



「たまには練習以外の事をして、違う刺激を受けるのも良いのかも知れないね」
「皆でやる事で連帯感が強まるんだろうね」
「それぞれの違う一面も見られて面白かったな」



放課後の部活を潰してやっただけ亜風炉にも得られたものがあるようだった。
充実した表情が月明かりに照らされて頼もしく、また眩しい。



「…そう言えば照美君、家はこっちの方向だったっけ…?」
「もうすぐ分かれ道だよ。でも今日は君を送って行くから、もうしばらくこのままかな」
「えっ、いやいいよ!明日も練習あるから真っ直ぐ帰って?」



暗いから気を遣ってくれているのか、亜風炉は一緒に帰ってくれるという。
勿論、遠慮するが彼は煌めく髪を左右に揺らす。頑として譲らない雰囲気を感じた。



「照美君…明日も練習あるのに、疲れを残しちゃダメだよ」
「僕があの程度で翌日に持ち越すくらい疲労すると思っているのかい?」
「そうは言ってないけど…」
「…。名前はハロウィンで何故仮装をするか知っているかな?」
「え?…お化けに仲間と思わせる為、だったかな」
「そう」



唐突に聞かれ、パッと出て来た答えを口にする。

確か、西洋では祖先の魂と一緒に悪霊も現世に還ってきて、悪さを働くと考えられていた。
悪さとは作物や家畜に害を与えたり子供を攫う事を指すが、
それらを防ぐ為に魔物の仮面を被った事が始まりだったと聞いた事がある。
同類ならば手を出しても意味がないという考え方なのだろうか。



「…仮装していないとハロウィンの期間は危ないから、送ってくれるって事?」
「ふふ、まぁそんな所かな」



亜風炉がきっかけにするには幼い理由過ぎる気がするが、
何の意図があって起源の話をしたのか分からない名前は亜風炉を見つめる。
すると丁度 赤の信号機が灯った横断歩道に差し掛かり、彼はその歩を止めた。



「―――…悪霊云々を信じているわけでは無いよ。
 けれど、まるで憑りつかれた様な愚行を行う者もいるだろう?
 僕は君にそんな者たちの振る舞いに巻き込まれて欲しくないんだ…特に、夜道は気を抜いてはいけない」
「照美君…」
「…なんてね。ハロウィンにかこつけすぎたかな。
 要するに人に危害を加えるのは人で、こんなに深くなった夜を君だけで歩かせるのは忍びないという事だよ」



熱を表す色の瞳を優しく細め、亜風炉は美しく微笑む。
それはあまりにも幻想的で、名前は思わず息を飲んだ。



「君をご両親の元に送り届けるのが、今日の僕の役割だ」
「頼もしいな。照美君と一緒だと、どんな暗がりでも怖がらずに進めそうだね」
「そう言ってくれるなら尚の事、僕は確実に名前を導かなければならないね」


信号が青に変わった。

じゃあ行こうか、と彼は手を差し出す。その紡がれた言葉の通り、引いて行ってくれるという意味なのだろうか。



「…ありがとう、照美君。じゃあ…お言葉に甘えて」
「どういたしまして。…と言える程、特別な事はしていないけれど」
「そんな事ない、いつも助けてもらってるよ」



ハロウィン限定でなくても、仮装してなくても。
見えざる何かが亜風炉に困難をもたらした時、彼がそれに負けないよう支えられる人になりたい。

そう思いながら 名前は自分を導くと待ってくれている彼へ、自身の手を伸ばした…―――。





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