×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




2:FWとエースストライカー

雷門と美濃道三の試合が始まる。
名前は残念ではあるが今回も観客としてゲーム運びを見ていた。

開始前から懸念していた通り、やはり相手の守りは堅い。
今の所、中盤からゴール近くまで持って行かせてもらえる事もあるが
ゴール前の鍵はしっかりかかっている。

強化委員として壁山が出ていればもっと攻めにくかっただろう。
この前のように知り合いがいないので大人しく観戦していると、すぐ横から声がかかる。




「―――…あれっ?名字じゃ〜ん」
「本当だ、お前も見に来てたのか」
「えっ、マックス君と半田君だ!」




同じ様に強化委員として派遣されている松野と半田だった。
観戦モード全開でジュースを片手にしている。




「音沙汰なかったから心配したよ〜」
「色々変な噂も耳に入ってくるしな。…何か疲れた顔してるけど、大丈夫か?」
「うん、ありがとう。まだ解決はしてないけど、何とか持ち直したよ!」




久しぶりに言葉を交わす雷門の仲間に名前の顔は綻んだ。
『んじゃ、新しい雷門のお手並み拝見と行きますか〜』と松野が席に座ると
半田が『お前本当にマイペースだよな…』呆れた顔をする。




「…ん?そう言えば名字ライセンスは?そっち一般入場側だよな?」
「あ〜、ちょっと…色々あって持って来てなくて…」
「名字が忘れ物なんて…珍しい事もあるもんだな」
「問題児が多くて自分の事に手が回んないとか?」
「いや、そんな事は…」



どちらかと言うと、問題があるのは監督の方である。悪い人ではないのだけれど。
言い淀んでいると察しの良い松野が服の袖を引いて座れと促す。




「ま、そこんとこも含めて雑談しながら観戦かな」
「え。私、今日関係者席座れないよ…」
「席も空いてるしボクらがいるなら大丈夫でしょ、怒られる時は一緒ってね〜」
「いや、俺は怒られたくないんだけど…」
「半田は冷たい奴だなぁ〜名字だけ立たせるんだぁ〜へぇ〜」
「ぐっ…後で覚えてろよ…」
「いや、半田君、私立って観られるよ…!」
「お前は顔色悪いから駄目」




苦虫を噛み潰したような顔をして、半田は名前を松野との間に座らせた。




***




「…まぁ、そんな感じで雷門の一週間の練習は『守り』を固める内容だったんだ」
「守備対決かぁ、壁山いなくて良かったね」
「確かに、試合に出てたらもっと雷門にとって厳しい展開だっただろうな。
つーか壁山は足、大丈夫なのか…」
「うん。たまたま昨日会って話したけど、骨にも異常なかったみたい」
「そっか」



そう言って表情を緩ませる半田。先輩としてチームの仲間として気にかけていたのだろう。
松野も興味なさそうにはしているが
茶化さず静かに話を聞いていた所を見ると内心気になっていたようだ。



「…まぁ、でも結局守ってばっかじゃ試合は動かないからさ。
美濃道三が勝った実績があるなら、それはどうにかして得点したって事でしょ。 何かあるんだよ」
「そうだな、守りが堅い事には定評があるけど攻めてるとことか見た事ねー」
「私もない。でも監督には情報があるから今回の練習法になったんだろうね」



今、美濃道三のゲーム展開を見て確信した。
このチームは攻める気がない。勿論、戦略的な理由で。

徹底的に守りを固め続けて勝利を得る方法は限られている。
例えば、延長戦まで粘り切ってPK。もしくは相手の疲労した所でカウンターを狙う戦術。
ただ前者はGKが余程の実力者でない限り確実ではない。

となれば自然と後者だが、今の所隙をついて攻めてくるような様子は見受けられない。
後半戦の試合時間ギリギリで勝負を仕掛けてくるのかも知れない。



「…それにしてもあのちっこいの頑張るなあ」
「ホントホント!突破は出来なかったけどポチャッとしてるのによく動くじゃん」
「小僧丸君の事?」
「こぞーまるっての?」
「どんな奴?」
「どんな子か…そうだなぁ」



名前は自分の感じた印象、知っている限りの小僧丸を話す。
豪炎寺に憧れている事、見かけに反してパワフルなプレーも得意な事。
FWへの想いは人一倍強いという事。

あれやこれや話しながら観戦していると、
どちらも動く事ないまま前半終了のホイッスルが鳴った。
攻めあぐねた雷門はストレスを溜めているだろうとの見解を松野が述べた。



「確かに豪炎寺に憧れてるんなら、この状況はイラつくかもな」
「上手く攻められてないもんね。名字はこの試合どっちが勝つと思う?」
「勿論贔屓目あるけど雷門かな。今の雷門は豪炎寺君みたいなタイプはいないけど、
それぞれが考えて努力重ねる人達ばっかりだから」



特に、小僧丸はなかなか頭がキレる。

FWとして相手の守備を間近に感じ、周りの状況を見て
考えながらプレーしていればそろそろ気が付くはずだ。

監督が守りに徹する指示を出し続ける理由に。




***



『豪炎寺君がどんな人だったか?…う〜ん、そうだなぁ。
言葉で言うのは難しいけどFWらしいFWって感じなのかな。
あの人なら絶対点取ってくれるって信じさせてくれると言うか』



以前、名前に小僧丸が豪炎寺について尋ねた時の答えの一部だ。
そんなの外野が観てても分かる、と言ったら
『そっか〜、そうだよね。どういったらいいかなぁ』と困ったように笑ってこう答えた。



『そういう風に皆に思われるぐらい努力も練習もするし、
点に繋げる為にどうすればいいか、ずっと考えてくれてる人だね。

勿論、自分も点取りに行くけど意固地にならないというか…
  周りを見て、他の人が攻めるのが最良と思ったらサポートに入ってくれるし。

正にエースストライカー、『FWのお手本』って感じ、かな?分かる…?』



その時は『そりゃFWなんだからそういうものでは』と思った。
けれどその時の自分は字面だけ聞いて、きちんと意味を理解していなかったのだと思う。



「(練習から前半まで、俺は何一つ…FWですらなかった)」



豪炎寺修也。
彼を目指すならばとチームメイトである名前に聞いた事は全く活かせていなかった。

勝つ為に監督が出した練習や指示に反発して練習に参加しなかったり、
前半だって攻めようとして悪戯にチームのゲーム運びを乱した。

雷門はその監督を響木にするまで指導らしい指導をあまり受けて来なかったという。
コーチや監督の機能しない中、『点に繋げる為に考える』事は全てが能動的な作業であり、簡単な事では無い。

自分の憧れるプレーヤー、『エースストライカー』がしてきた事はそういう事だ。
監督の指示があるという恵まれた環境下でも、
その指示の意図を理解しようとしなかった今の自分が肩を並べるなど出来る筈もない。




「(でも、ただ馬鹿やってただけじゃ終われねぇ…
   相手チームがカウンター狙いだって分かったんなら隙を狙って得点する…!
その為に、俺がやるべき事は…―――!)」



自分達と同じ様に守備を固め、なかなか攻めて来ない雷門に痺れを切らして
美濃道三が守備ラインごと攻め上がって来る。

その勢いや中盤を完全に制圧する勢いだ。
それでも、DFが必ず前線にボールを繋いでくれると信じ、小僧丸は走り出した。


直後、岩戸が必殺技で相手の全員攻撃を止めた事を機にバンドに攻撃開始の指示が送られる。
支配権が雷門に変わったボールは前線へ上がった自分の元へ繋がれた。


―――このチャンス、絶対にモノにする。





「ファイヤトルネード!!!」




渾身の力で振り抜いたシュートは相手GKの守備を打ち破り、深々とゴールに突き刺さる。



「―――っしゃあ!!」



チームの繋いだボールを託されて、自分のシュートで得点した時の高揚感は何物にも代えがたい。
ガッツポーズを決めると後ろから横から仲間も喜びの声を挙げたのが聞こえた。




「(…アンタが俺に伝えたかった事、まだ完全に分かっちゃいないかもしれないが…。
  つまりは、こういう事だろ…!)」




いずれ同じピッチでプレーするであろう その姿を探す様に観客席を見上げると、
微かに肯定の拍手が聞こえたような気がした…―――。

















------------------------------------------------------------------------
美濃道三戦でした。
友情出演してもらった半田君と松野君はどこに派遣されているのでしょう…。
アニメでは描写ありませんでしたが、ゲームでは細かく設定されているのかもしれませんね。


[ 25/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]