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0:プロローグ

強化委員として訪れた以前の中学で待っていたのは明確な『拒否』だった。

それだけならまだ構わなかった。
全ての人に受け入れられるなんて初めから思っていないし、
強化委員という枠さえ快く思わない所だってある。


当然だ、自分達とは違ってきたモノを受け入れるにはそれなりに時間がかかる。


それよりも堪えたのは、そのチームを結果的に潰してしまった事だ。

強化委員という枠を広告として欲しがったスポンサーが契約を破棄した。
新制度は企業が付かなければ活動し続ける事は困難で、
名前が加わらなかった件のサッカー部は休止という形の廃部に追い込まれた…ーーー。





「…」



サッカー協会と対応について話し合った後、
ふらりと訪れたのは雷門サッカー部の部室だった。

フットボールフロンティアに優勝してサッカー部を見る目が変わっても、
グラウンドが土から芝生になっても、新しい部室が出来ても、
この古めかしい木造の掘っ建て小屋は変わらずそこに佇んでいた。

それでも、もうそこに入っても誰もいない。

派遣されて散り散りになってしまった後は、
懐かしさも何だか物悲しさにすり替わってしまう。




「(…勢い、削いじゃったな…)」




名前の派遣されたのはチーム内でも初めの方だった。
世界のサッカーと競い合う為もっと技術を磨こうと皆で決めた目標を、
いの一番に潰すなんて最悪だ。


協会からお触れが回っているので強化委員は事情を知っているし、
誰も名前を責める事なんてしない。
寧ろ励ましてくれる面子ばかりだったが、それが余計に申し訳なくて未だ連絡を返せずにいる。




「(…電球切れてる、…あ、違うか。電気通してないんだ)」




立て付けの悪い引き戸を跨いで中に入ると、埃っぽい匂いがした。
皆で座ってミーティングをした床も掃いていないから汚れている。

傍にある椅子を少し撫でるようにしてから腰掛けた。




「…返事しないと」




しかし何と返せば良いのか名前には思いつかなかった。
どんな言葉も今の気持ちに乗せたら嘘っぽくなってしまいそうで嫌だった。




「皆、ごめん…。ごめんなさい…」



小さく呟くと同時に視界の先に小さく水滴が滲んだ。
どうしていれば違う結果になったかは分からないが、どうする事も出来ない悔しさに
名前は雷門に来て初めて泣いた。




***




誰もいない代わりに誰にも見られない空間で、嗚咽が木の壁に静かに響く。

喉がひりつく程度には泣き続けているのに、
止まる事を知らない涙でタオルハンカチはその重さを変えてきている。




「(いい加減、切り替えないといけないのに…)」



ごくんと唾を喉の奥に落として省エネモードになった携帯を起動させる。
最後までやりきれずに途中で止まってしまうこの動作は、もう何回したか分からない。




「…ーーー」




駄目だ。
アプリを開く指がまた画面から離れようとしたその時。



「名字ッ!!ここか!!?」
「わぁあっ!!?」



木をベースにした形容し難い音が後方から聞こえたかと思うと、
部室の扉が勢いよく端へ跳ね飛ばされる。



「良かった、見つかって…」
「えっ、と…、あの、どうしてここに?」
「名字から返信ないから皆で心配してたんだ、お前マメに返してくるのに
 こんなに長く返事ないのはおかしいって」




声の主はよく見知ったイレブンの1人。
どうやら返信のない名前を案じて探していたらしい。

そして同じようにしてくれていたのは彼だけではないらしく、
携帯で『見つけた。あぁ、遅いのにお前もありがとな…』と連絡を取っている。




「…名字。大丈夫…じゃ、ないよな」




泣き腫らした名前の顔を見て、バツが悪そうに言った。




「もっと早くこうして顔を合わせるべきだった。
 いつも俺たちはお前に支えられる側だったから、今回も大丈夫だろうなんて軽く見てしまった。
 …ちょっと考えたら分かる事だったのにな、名字が俺たちに後ろめたさを感じてる事くらい」
「…っ」




肩に手を置いて『すまない』と気づかわしげに謝る彼と目があえば、
驚きで止まりかけていた涙がまたポロっと頬を伝った…―――。





***




「…。」




雷門の皆がスポンサー獲得とフットボールフロンティア予選続行の知らせに沸き立つ、
ある日の練習後。
解散を告げてぞろぞろと帰路に就く伊那国の面々から離れ、
名前は旧部室を見つめていた。

するとそこに、稲森が駆けてくる。



「名字さーん!!どうしたんですか?帰らないんですか?」
「稲森君。ううん、どうもしないよ。私も帰る」
「? そうですか?じゃあ、途中まで皆で一緒に帰りましょう!」
「うん」
「…そういえば。何でこの部室こんなにガチガチに施錠されてるんでしょうね?」
「んー…。前々から古めかしいから危ないとは言われてたんだけど、
 私が入っちゃったのがきっかけで、かなぁ…」
「ええっ!?名字さんが!何で入っちゃったんですか?!」
「…、…まぁ、その話はまた今度ね」
「気になるじゃないですかー!」



数歩 歩き出した後に少しだけ振り返り、部室を視界に留める。

あの日に比べ自分は少しでも前に進めただろうか。
一度は吹っ切ったと思ったのに、強化委員としてのあの経験は最近になってまた名前の足を引っ張った。

―――それでもその度に仲間に支えられ、名前はここに立っている。





「(…頑張らなくちゃ)」




もっと先へ、更に前へ。
もう一度ここから、名前のサッカーは始まる…―――。




















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新連載、もう一度始める、再出発という意味で『Restart!』にしてみました。
プロローグは旧部室に焦点を当てて、イレブンの1人との過去回想を…。
もう半分くらいバレてる感じもしますがこの人は結局誰なのか、あの後どうなったのか、とか追々書けたらいいなぁと。


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