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6日目:休憩

『今更、何でお前とチーム組めるって言うんだ?スポンサーもついた。新入部員も入って抜けた分の頭数も揃った。
ーーーいらないんだよ、お前なんか!』


派遣されて顔合わせがあった時、名前が言われた言葉だった。

心無い拒絶は名前を傷つけたが、
それ以上に悲しみの淵に追いやったのは、その後の出来事。



「えっ…?あの、今何て…」
「ショックかも知れないが、名字さん。
あのサッカー部はしばらく活動できなくなった。
スポンサーに暴力を奮ってしまったんだよ…」



サッカー部はスポンサーとの契約を解約されていた。

名前、つまり強化委員の加入前提で契約をしていたらしい先方。
チームに強化委員が入らないと分かり、
旨味がない知ると手の平を返したという。

それに激昂した部員がスポンサーに暴力で訴え、傷害沙汰になってしまったらしい。
そんな経緯や部員の将来性を考慮してサッカー協会は休部という名目を与えたものの、
実質的には廃部に近い。


元々、血の気の多い性質の部員だった。
意にそぐわない事があれば起こる事態は予想が出来た。

けれど名前がそれを聞いた時には、全てが終わった後だったのだ。



関わりを拒まれた名前に、それを止める事は、出来なかったのかも知れない。
それでも強化委員としてサッカー部のレベルを上げるどころか、
その部を潰してしまった現実に名前は項垂れた。



「(私…、どうしたら良かったのかな…)」



いつか来るであろう活動再開の時。
その時の為に事実は出来るだけ広がらないよう協会が抑え込み、
念をいれて噂で覆われた。


『過度なラフプレーで活動休止になっていて、
それを指示していたのは強化委員…今回の件は、そういう事になりました』

『彼らもまた才能あるプレーヤーである事には変わりない。
…君の協力でやり直せるチャンスがまだあるんだよ、あの子達には』

『こんな事が明るみになればスポンサー制度の定着を揺るがしかねない。
日本サッカー界発展の大きな足枷になってしまうだろう…だから』

『勿論、出来る限り事態を広めないよう努めるし、
まして有望な選手でもある君の名前を、大っぴらに出したりはしない。約束しよう』




真実を知るのは限られた人間のみ。

青少年たちの更生の為と言われれば、
身勝手に契約を破棄した後ろめたさのあるスポンサーも下手に騒がないだろう。


ーーー後は自分が飲み込むだけ。


「…分かりました」


過ぎた時間は戻らない。起こした過ちは消せない。
けれども、周りは既に動き始めてしまった。
何事も無かったかのように振舞い、元の形が分からないようにしてしまった。


自分にも件のサッカー部員たちにも、選ぶ余地などなかったのだ。
それこそ、スポンサー制度が導入された最初から…ーーー。



***




「名字、名前と…」



何日か前に交換登録したばっかりの名前を入れると、
すぐに電話帳から名前の電話番号が出てくる。


島では年が近くてサッカーやってる女子なんかいなかったから、
実質初めてのサッカー友達。
すぐに呼び捨てで呼ぶくらい仲良くなれた。


それなのに初めてかけるのがこんな暗い話題なんて…落ち込んじゃう。
でもここで引いたら女が廃る!行動あるのみ!!



「のりか、電話なんて珍しいな。お袋さんか?」
「海苔終わっちゃったんですか?」
「違うよ、名前にかけんの」
「は!?おま、馬鹿やめとけって…!」
「うるさーい!本当は直接話したいけど、家知らないんだもん!」
「誰か〜!止めるの手伝って下さ〜い!」




もう、ここじゃ静かに電話も掛けられないよ。



「(鍵かけて…、これでよし。ゆっくり名前から話を聞くんだから)」



女の子一人だとこういう事が出来るから便利だよね!
さて、電話電話…!



『−−−はい』
「名前!大丈夫?元気??」
『ふふ、のりちゃん急にどうしたの?』
「昨日私たちほっぽり出されたから後に何があったとか分からなくて…
監督に変な事されなかった??」
『信用ゼロだね…!でも大丈夫、監督はそんな人じゃないよ』



話のダシに使っちゃった、監督ゴメンナサイ。
でも取り敢えずいつもの感じで安心した。



『…噂の事、気にして電話してくれたのかな』
「えっ!!う…うん…」



思いがけず名前から切り出してきたから思わずどもっちゃったけど、
それなら話は早いよね。単刀直入に聞こう。女は度胸!



「あんな噂、嘘だよね?皆心配しちゃって…嘘なら嘘って言って、生徒会に言えば…」
『…、ごめんね。それには、答えられなくて…』
「何で!?私たちでも分かるよ!名前がそんな事する訳…」
『のりちゃん』



携帯の向こうから、私の言葉を遮る名前の声。
勢いがある訳でも大きな声の訳でもないのに、私の声は止まってしまった。



『皆が心配しているのは…何なんだろう?』
「何って…名前が…」
『私が落ち込んでるかもって事…?
 私が試合にいなくて、勝率が下がる事…?
 それとも、私が本当にラフプレーを指示するかもしれない事…?」
「っそんなの…!…、…」



言葉が続かなかった。やっぱ私たちが帰った後、絶対何かあったんだ…!
名前の声はすっごく寂しそうで、何て返せば元気出してくれるのかが分からない。

でも、私が返せる答えはこれしかない。



「―――…そんなの!全部だよっ!全部!!」
『えっ…、ぜん、…ぶ?』
「そうだよ!だって名前何も言ってくれないし!」



練習の時、名前は弱音も文句も言わなかった。
きっとサッカーが好きで、練習の全てが繋がるって知って、
取り組んでるから。それだけに、技術以外の事で試合に出られないなんて…
ショック受けない訳なんてない。


それに私たちはサッカー続けたいって夢を持って東京まで来たから、
やっぱり勝って実現させたい。
だから、一番技術がある名前を頼ってしまう気持ちがあるのは嘘じゃない。


噂だって名前の口から「違う」って言ってくれれば、皆その場で信じたと思う。
いや、絶対信じた。
でも、名前は今だって聞いても曖昧にしか答えてくれない。


何か理由がとか、こだわりがあるのかも知れないけど…それでも。
それでも、もっと私たちに伝えて欲しい。




「名前、私たちに『皆の事教えて欲しい』って言ってたじゃない!
もっと私たちにだって、名前の事とか気持ちとか…教えてよ!」
『…っ…』



言った。言い切った。言い切ってしまった、かも知れない。
でも、これが私たちの正直な気持ちだと思う。伝わったかな…?



『そっか…全部…。うん、そうだよね』
「名前…。あの、いっぱい言ったけど傷つけてたらゴメン…でも本当の気持ちだから!」
『大丈夫だよ、のりちゃん。…ありがとう。
 …言える事ばかりじゃないけど…私も、皆に伝えられる事を考えてみる』




何だか一人で納得したらしい名前は私に伝言を頼んで電話を切った。

切られちゃったら、仕方ないから男共に伝えないとな〜と思って、部屋のドアを開ける。



「…皆、何してんの??」
「いや、あの…気になって…」
「名字さん、元気でした…?」
「モヤモヤして休みどころじゃないからさ…」



それぞれが一斉に口を開いて、何言ってるか分からない。
というか、乙女の部屋の前に全員集合して聞き耳立てるってどういう事?

センチメンタルな気持ちは一気に消し飛んだけど、まあ…
皆やっぱり名前を心配してたって事なのかな。




「よ〜し、野郎共!!のりか様が名前から伝言預かって来たから、心して聞きなさい!」



明日の試合をやりきるために、私は名前の言葉を伝えた…−−−。















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いつもと逆の構成にしてみました〜
ラストスパートです。



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