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5日目:鶴亀公園ドリブル外周100周

こんにちは!

私は雷門のマネージャー、大谷つくしと申します!
本日の練習は鶴亀公園外周ドリブル100周となっていますが、天気は快晴、午前午後共に降水確率も0と絶好のコンディションです!

そんな中、スイスイとドリブルをこなす名前ちゃん。水の中のお魚の様です。

あっ、でも後ろから稲森君が追いついて来ました!



「稲森君、ボール足元から離し過ぎたらすぐカットされちゃうよ?」
「うっ!そ、そうですよね…!走るのに必死で…」
「追いつこうとすると足元がおろそかになるよね、私もだけど。そういう時は、私こんな感じで…ー」



名前ちゃんが横に並ぶようにスピードを落として稲森君に何やらお話しています。
円堂君みたいに熱血!って感じではないですが、名前ちゃんも自分なりに相手への関わり方を工夫しているようです。


『試合までに私…、皆に何か残せるかな』


何があったのかは分かりませんが、練習前にそんな風に言っていた名前ちゃん。
お話できれば良かったのですが、そのままでも練習が始まってしまったので何も言えずじまい…。
でも、その練習を見ているからこそ分かります。


「(名前ちゃん…名前ちゃんは皆さんにキチンと良いものを渡せてますよ …!)」


それを証明するにはやっぱり、雷門の皆さんが勝利するのが一番です!
私も一生懸命、応援をしなくては!



「皆さーーん!頑張って下さーーい!!」



***



ここしばらくより幾らか実践に近い練習だった為、熱の入った時間を過ごした雷門サッカー部。
気持ちよく学校に帰ってきたと思った矢先、部員の気分は奈落の底へ叩き落とされた。


「ーーー…そういう訳で、名前君は妙な噂が立ってるので
 生徒会から試合出場禁止令が出てマース。


 だから明後日の試合は伊那国島の皆さんでいっちょ頑張って下サーイい !
 以上解散ですネ!」

「いやいやいや!待ってよ監督!!」
「どういう訳か全く分からないですけど!?」
「あっ、名前君はちょこっとお話があるのでワタシと残って下サーイ」
「本当に人の話聞かねぇな!?」



抗議虚しく、伊那国の仲間たちは部室の外に放り出された。まぁドウゾ、と監督に座るように促されて名前も椅子に腰掛ける。



「せっかく派遣されたのに試合に出られないとは災難でしたネ〜」
「…そう、ですね」
「真実なら仕方ないですが、濡れ衣なのに何故 何も言わないんですか?出るとこ出れば慰謝料ガッポリですヨ?」
「濡れ衣…って、何で監督はそう思うんですか?」
「それはぁ…名前君が派遣されていた期間と部が活動休止になった期間がチグハグだからですネ〜!」
「!?」


どうして自分が派遣された期間なんて知っているのだろう。
知っている人は殆どいない筈なのに…と声もなく驚けば、ニヤリと笑った監督は『ワタシには優秀なコブンさんがいるのでネ!』とだけ言った。



「別にワタシには関係ないんで良いんですケド〜。
部員自身の判断で過剰なラフプレーを続けたとあっては二度と復帰出来ないから、
ぼやかす為に黙っているよう頼まれたとかそんな所デショ」



適当に言っているようで、この人は確信を持って話をしているように感じる。
その根拠の出所は分からないが、先程の『子分』が一役買っているのだろう。



「…大切な試合の前に皆を動揺させる事になって、すみません」
「あ、はぐらかしちゃうんですネー。
まぁそれはワタシが皆さんにバラしたんで名前君に罪はないんですケドも」




当日まで黙っておいて、スターティングメンバーに選ばれなかっただけの形をとる方法もあった。それをしなかったのは監督の裁量だ。


恐らく、強化委員という後ろ盾がなくても試合をこなせるような精神力を…といった所だろう。
試合2日前というタイミングは最悪だが、それはある意味で必要な事だった。


何故なら、伊那国島にサッカーを取り戻すという目標を掲げる以上、
彼らはいずれ自分達だけの力でやって行かなくてはならないからだ。



「でもこれで、良かったのかも知れないって思います。少し距離ができて…」



最初は、あくまで新・雷門の支援程度にとどめようと思っていた。
実際、派遣される前に言われた言葉も『サポートして欲しい』だった。
勿論、日本のサッカー技術向上の為に派遣されるのが強化委員なのだからそれは間違ってはいない。

しかし、一緒に練習をして色んな話をして関わっていく内に、
チームの一員になりたいと思うようになっていた。



「(私が関わって休部になった所があるのに、皆とサッカーするのが凄く楽しくて…)」



だから罰が当たったのかも知れない。そしてこの大事な時に、皆に余計な不安を与えてしまった事に心が軋む。
何も言えず唇をつぐんでいると、監督から声がかかる。




「名前君、馬鹿な大人の考えに付き合う事無いんですヨ。想いがあるのに、今君はとても不自由デス。楽しくないデショ」
「…!」
「…何の為に強化委員をしているのかではなく、どうして自分はサッカーしたいのカ?
それを思い出さないと、いずれ君はサッカー嫌いになってしまいますヨ」



カチッと、時計の短針が音を立てる。その僅かな音さえ響くほどの静寂が名前を包む。



「…そう、ですね」
「分かってるなら大丈夫ですネ」



鋭い言葉だが、事実だ。
答えは持っている。でも口からすぐに出てこない事。
これが監督の言う『いずれ』の可能性を確かに示唆している。



「…」
「フットボールフロンティアで優勝してから、ゆっくり考える時間が…名前君にはなかったのかも知れませんネ。
…人間は考える葦、とはよく言ったモンですネ。明日は1日お休みですし、一度立ち返ってみては如何ですカ?」
「…はい…」



試合に出ないのであれば、考える時間は明日だけではない。
出た所で、今の中途半端な自分は雷門の邪魔になるだけだ。



『万一、間違えでもあればワタシの首が飛ぶんで、イレブンライセンス預かっておいても?』と言った監督に何も言わず、そっとライセンスを渡す。



そのまま、名前は部室を去ったのだった…ーーー。














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これだけ監督が会話してる夢も無いんじゃないかと思います。


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