×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




7日目:試合

ピィ、と試合開始のホイッスルが鳴る。
雷門の皆が勢い良くピッチに散って行くのを、私は観客席から見ていた。

ライセンスで見やすい席を取れなくても皆がよく動けているのが分かる。



「ーーー…隣、良いか」
「あ、どうぞ…。ー…あれ。鬼道君!?」
「こんな所で立ち見とはな。ライセンスはどうした」
「…置いて来ちゃった。鬼道君こそどうしてベンチ入ってないの…??」



訊ねると『名字が一般ゲートから入るのが見えたからな』と答えが返ってきた。
気かけて追いかけてくれたみたいだった。

結局、フィールドで会うことも出来なかったんだなと思うと、『ごめんなさい』が口からこぼれ出る。



「謝るな、俺が勝手にやった事だ。大体、聞きに来たのはそんな事じゃない。お前の事だ。
 何故、嘘の噂が今更持ち上がった?」
「それは、分からない…。でも、噂の事なんかよく知ってたね」
「情報収集した春菜が怒り狂っていた」



…今度、春ちゃんにも心配かけてゴメンねと謝りに行こう。

でも、噂が持ち上がった事は知ってても流れ出した先や理由は、やっぱり分からないみたいだった。
当事者の私が知らないんだから当然と言えばそうなんだけど…引っかかる。



「(今は、何も分からないなぁ…)…私、大丈夫だよ?」
「当たり前だ。自滅した奴らに引き摺られて落ち込んでいる場合か…さっさと立て直せ」
「厳しい」



でも、優しい。
帝国も星章も、鬼道君について行こうって周りの人が思うのも納得する。

…私の周りは、皆素敵な人ばっかりだ。



『ゴーーール!雷門の小僧丸君!先制ゴールをもぎ取りました!こんな展開を誰が予想したでしょうかーー!?』



ピィー!という音と実況の人の声が響く。雷門が先制ゴールを決めた。
皆の喜びも伝わって来るようで、あのピッチにいない事を悔しく思う。



「試合に出られないのは悲しいけど…今回の事は私に必要だったのかなって」
「…名字…」
「活動休止の事を聞いてから、きっと、多分…私はサッカー楽しめてなかった」



私だけサッカー続けて良いのかな?
周りの言葉をそのまま信じて良かったのかな?
本当に押し黙っている事が正しかったのかな?


最初に考えないといけない事だったのに、他校への手伝いにかまけてそれをしなかった。

必要としてくれている人がいるなら、今はそこで頑張らなきゃって誤魔化してた。

忙しく振り回されていた方が、とても気持ちが楽だったから。
だってこんな事、考えるだけで。



「息が、…詰まりそうだったから」
「…そうか」




それでも本当の意味で前に進む為に、目を逸らしている場合じゃないって気付かせてくれた人達がいた。

言うまでもなく、雷門の皆だ。




「真っ直ぐで応援したくなる、だったか。この前会った時に言っていたな」
「そう。…今になって思うと、私はきっと皆に共感してたんだね」




世の流れで大事にしていたものを奪われてしまった伊那国島の皆と、自分の選択の結末として身動きできなくなっていった自分。

どこか重ね合わせていた。



「でも一緒に練習してて分かった。仕方がないって受け入れた私とは違う。
皆は自分達で何とかしようって必死で動いて考えて…―――キラキラしてた」




雷門にきたばかりの私は、きっとあんな感じだったと思う。ただ、皆と練習したり試合したりするのが楽しくて、ひたむきに打ち込んでいた。
自分がそういう風にある事に対して迷わなかった。

だから思った。
もう一度、私も皆みたいになりたい。キラキラ光ってみたい。




「知らない内に忘れちゃってた事を思い出させてくれた。
 監督に聞かれたんだ。何の為に強化委員をしてるかじゃなくて、
 どうしてサッカーしたいの?って」



その時は答える事が出来なかったけど、立ち止まって考えた今ならはっきり声に出せる。



「答えは?」
「…サッカーが好き。強化委員だからじゃない、好きだからやる。
 …簡単な事だったんだよね」
「あぁ、そうだな…簡単な事だ。だが、俺たちを動かす原動力のような…大切なものだ」
「深くにしまい込み過ぎて、触れなくなってたみたい」
「ふっ…なら今度は腕にでも抱えておけ」



鬼道君はそう言うとどこか満足気な顔をした。…ような、気がした。



***



白熱した試合はついに終わりを迎えた。
結果は…雷門の敗北だ。それも、大量得点差の大敗を喫した。

その一部始終を名前と鬼道は静かに見届けた。



「…終わったな」
「そうだね。でも、皆にとっては今からだよ」



確かに結果だけ見れば、惨敗だ。でもこの試合の持つ意味はそれだけではない。



「出るか」
「うん」



今自分がベンチに行ったとて、出来る事は無いだろう。名前がそうだったように気持ちの整理には時間が必要で、渦中の人間が行っても余計に混乱させるだけだ。

人込みが空くのを待って、スタジアムの外へ足を向ける。



「…ーーー噂については、もう反論しないのか」
「うん。だってそれは、黙ってるって約束したからね」



あの時の協会の大人達は『名前やサッカー部員の未来の為に』と言っていた。
それは決して嘘ではないけれど、きっと本当に守りたかったのはスポンサー制度だった。

責める訳では無い。
立場が違えば考えも違う。制度を確立させる事が、神のアクアの様な悲しい事件から子供を守り、日本のサッカーを更なる高みに引き上げる。
それがひいては名前や部員たちを守る事にも繋がると、そう信じての言葉だったと理解した。

スポンサーのいない部を廃部に追い込む現状を作った手前、この制度を確固たるものにする事は何よりも優先すべき急務だったのだ。



「例え選択肢が限られていても、私は黙ってる事を選んだ。
 あの時の私なりに納得して受け入れたから。…今更文句はないよ」
「お前がそう決めているなら俺は何も言わないが。…それで今の雷門は納得するのか?」
「分からない。…でも皆の力になりたい事は伝えたいな。
 それから先、どうするかは皆が決めてくれたらって思う」



あの時とは違う。示された答えはなく、自分で考えて出した結論。その答えを委ねる事を『選んだ』。

結果がどうであれ、後悔しないだろうと思えるのは本当に選び取れた証拠だ。




「建前でもない、隠すわけでもない。信頼も不信も、全部…
 皆は本当の気持ちを言葉にしてくれた。だから私は返せる物を探して行くよ。
 …本当は、全部答えられたら一番なんだろうけど」
「お前がさっさと立ち直るなら、何でもいい」



早く戻って来いと、励ましてくれているのか。例え学校が違っても、絆は変わらない。
そう思うと、何だかこそばゆいが嬉しい。



「三行半突きつけられなかったら、ちゃんと連絡入れるね。
 あっ勿論、駄目でも伝えるから」



散々心配してもらっておいて、転末も知らせないなんて酷い話もない。
ありがとうの意味も含めてそう言うと、鬼道はニヤリと笑みを深めてこう返した。






「安心しろ、もし2つ目のバツが付いたら貰ってやる」
















--------------------------------------------------------------------
また鬼道かよ!と思った皆様、また鬼道さんです…(笑)
他の雷門メンバーも出したいですね!


[ 37/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]