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4日目:稲妻商店街ゴミ拾い100袋

「剛陣君って体硬い?」
「あ?何だよ、急に」


今日の練習は商店街のゴミ拾い100袋。

…いや、これはもう練習じゃねえな。
雑用…でもねぇけど。なんだ…何か、手伝い的な。
その最中に俺がしゃがんでゴミを集めてると名字が不意にそんな事を聞いてきた。


「しゃがんでる時に踵が地面につかないでしょ?
それってふくらはぎが硬いからなんだ」
「硬いとなんなんだよ」
「怪我しやすいの。練習の前後とかしっかりストレッチしてる?」
「してるっつーの」
「本当かなぁ…」



やってるかと言われると、胸を張ってはやってると言えない。
ストレッチとか準備運動とか、大切な事は分かっちゃいるが…
正直ボール触ったり筋トレや特訓してる方が上手くなってる気がするから、
好きだしよくやってる。

…でも自分の足元を意識すると、確かに浮いてる。
立派なヤンキー座りの見本、みたいな状態だった。

膝を抱え込むようにしてしゃがみこむ名字の踵は、しっかり地面についてる。
しかしお前、よくそんな小さく丸くまとまれるよな…。

ダンゴムシみてぇってぼやいたら『女の子にそんな事を言わない!!』とかって
のりかに背中を叩かれた。馬鹿みたいに痛ぇ。
さすがキーパー、腕の力半端ねぇわ…。



「本当だよ、やってる!…時もある…」
「自信薄そうだねぇ」
「うるせぇな、怪我しなきゃ良いんだろ!」
「別に責めてる訳じゃないからそんなに必死にならなくても良いよ?
ただ、本当に怪我は気をつけて」


いつの間にか満タンになった自分のゴミ袋の口を括りながら
名字は真面目な表情で言った。



「今の雷門は控えの選手がいない。1人でも欠けちゃ駄目だからね」
「お前いるだろ」
「いるけど、そう言う気持ちで練習も試合もやらないと大怪我するよって事」



伊那国の皆で、サッカー取り戻すんでしょ?なんて当たり前の事を確認してくるから、
そのまま『あったりめぇだろ!今更な事言ってんじゃねえっ』って返してやった。



「うん、その意気だよ。…まぁ、ストレッチは無理にやれとは言わないけど…。
身体柔らかいと怪我しにくいだけじゃないんだよ。
無駄な力が抜けて疲れにくくなるしパフォーマンスもよくなるから、
気が向いたらやってみて?」
「そ、そうなのか…?」



初めて聞くことばっかりで驚く。こんな知識も入れとかなきゃいけねぇのか…
やっぱり強化委員の肩書きは伊達じゃねぇんだなと思った。

その矢先、聞き慣れない声が後ろからかかる。



「ーーー…名字さん、ちょっと良いかしら」
「生徒会長さん」
「神門杏奈です。少しあなたと話したい事があって来ました」
「話…。今じゃないと駄目かな?」
「杏奈さんを待たせる気?」
「何様のつもりよ」
「やめなさい、清掃活動中に来たのは私たちの方よ。…どれくらい待てば良いですか?」


生徒会長の神門がぴしゃりと言い放つと、取り巻きは静かになる。
今の言った事は筋が通っていて、ただの嫌な女でない事は分かった。
でも清掃活動じゃねぇし。それだけは認めねぇ。



「ごめんなさい、練習 兼 ボランティア中だから…後80袋分の間、
待っててもらっても良いかな?」


そうそう、ぼらんてぃあだ、ぼらんてぃあ。
これが出てこなかったんだよ。

思い出してスッキリしてると、しばったゴミ袋を少し持ち上げて苦笑している名字と、目をむいている神門、そして取り巻きが見えた…ーーー。




***




ゴミ拾い、もとい練習を終えた名前は生徒会室で杏奈と向き合う。
取り巻きの女生徒たちは人払いをしていて、部屋には2人だけだ。



「時間がかかっちゃってごめんなさい…」
「いえ…その、不思議な練習をしているんですね」
「そうだね、独特だと思う…でも皆不貞腐れないでやってて凄い」
「確かにそう、ですけど…。…いえ、話が逸れました。名字さんへのお話を」



杏奈が仕切り直し、名前を見据える。
折り目正しい所はよく知っている雷門夏未に似ていて、なんだか親近感が湧く。



「名字さん自身についてなのですけど…。
 今の雷門に派遣される前、あなたが派遣されていた学校…
 過度なラフプレーで活動休止になっていて、
 それを指示していたのはあなただという情報を得ました。

 …これは、本当の事ですか?」
「ごめんなさい、それについて私からは何も言えない」
「…!」



特に躊躇う事もなく、はっきりと返ってくる回答拒否。
少し面食らったような顔になったまま彼女は言葉を続けようと口を開く。
が、その時。

ガタッ! ばたばたばた…っ


「誰なの!?」



何か物音がしたと思えば、次は誰かが走り去る音が聞こえて
杏奈はその整った顔を歪める。



「人払いをしていたと言うのに人がいるなんて…あの子達。盗み聞きなんて…!」
「まぁ、姿を見た訳じゃないから生徒会の人達とは限らないかも知れないし」
「あなたの事よ!?何を悠長に…!」
「良いよ、知ってる人は知ってる噂だから…」



名前は調べればすぐに出てくる事だと気にしていない、と言うよりは
隠すのは諦めているといった感じだ。
杏奈はその様子を見て、納得いかなさそうにする。



「答える事が出来ない、というのはどういう事ですか?名字さんの事でしょう?」
「私の事だけど、私だけの問題じゃないから…だからごめんなさい。
それには答えられないよ」
「―――…分かりました。では質問を変えます」



名前の頑なな意思を感じてか、杏奈は少し不満げながらこう言った。



「あなたは雷門で、スポーツマンシップに悖るようなプレーを
チームメイトに指示するつもりですか?…強化委員の権限を以て」
「それはしない、絶対に」



強化委員はチームを私物化する制度でもなければ、プレイスタイルを強要する存在でもないと名前は思っている。全てはそのチーム自身が主体なのが大事なのだ。

意思なく、思考もなく、従うだけのサッカーでは
日本のサッカーは一向に世界に追いつけない。

そんな気持ちで答えたからか、表情が険しくなっているかも知れない。
聞いてきた安奈が物珍しそうにじっと自分の瞳を見ている。

そして、彼女自身の中で何か腑に落ちたかのようにひとり頷いた。



「分かりました。嫌疑はありますが証拠不十分、といった所ですね」
「潔白を証明できないで、ごめんなさい」
「いいえ。過去がどうあれ、あなたは強化委員としてサッカー協会に選ばれ、
派遣された人です。それだけ評価があり、行動が認められたプレーヤーなのでしょう。
…取り敢えず今は目を瞑っておきます」



立場上、言えない事の一つや二つあっても不思議ではないだろうから
渋々許してくれるといった所だろうか。



「ただ、今ある情報では、名字さんが汚れた白なのか
清廉な黒なのかは私には判別できません。

だから、私が名字さんの噂が嘘だと信じられるまで…雷門の強化委員として
大々的に表へ出る事…例えば試合などの出場は控えて下さい。

雷門の評判を落とさない為にも」
「分かった、約束します」
「…―――それから、何か困った事があれば相談して下さい。
私は雷門の生徒会長。生徒が不適切な行動をとるならそれを正し、
雷門の看板を美しく保つ義務がある。

けれど…生徒を悪意から守る事、それもまた役目ですから」



それだけ言って『今日のお話はもう終わりです…練習でお疲れでしょうから、
かえって休んで下さい』と杏奈はふいと背を向けたのだった…―――。
















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夢主の過去設定少し入れたらめっちゃ長くなってしまってすみません…!
杏奈ちゃんは根は優しくて、かつ正しくあろうとする子だと思うのです。


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