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閑話:鬼道有人

ーーー練習後。
情報収集の為に隣町出てみれば、しばらく前まで練習を共にしていたチームメイト、
名字名前がいた。

巨大な『アイランド観光』の大きな看板を掲げたビルから出てきた名字は、
振り返ってまた一礼をしていた。誰かが視線の先にいるんだろう。

何をしているかなんて野暮な詮索をするつもりはないが…気にならないといえば嘘だ。



「名字」
「あれ、鬼道君!部活帰り?」
「あぁ。お前は…こんな所で何をしていたんだ?」
「ふふ、今は内緒」



少し疲れたような、緊張が解けたような表情が、声をかけると消されていく。

雷門のブラウスだけの名字を見るのは久しぶりだ。
いつもカーディガンなりベストなりを着ていたのに珍しい。


「私、駅に行くんだ。鬼道君の行き先はあっち?」
「あぁ、俺も帰ろうと思っていたからな」
「じゃあ行き先は同じかな、良かったら一緒に行こう?」


断る理由もない。俺たちは遅くも早くもない速さで足を進める。
名字の隣を歩きながら雑談をしていると、雷門にいた時のようで懐かしい。
さほど前の事でもないのに不思議だ。

それぐらい、俺たち強化委員を巡る環境は一変している。



「新しい雷門はどうだ」
「皆、かわいい」
「かわ…?」
「あっ…あのー…うーん…ピュアって言うのかな?
真っ直ぐで、見ていたら応援したくなるような人達なの」
「ほう」
「伊那国島って所からサッカーする為に出てきて…
今はなかなか受け入れてもらえてないけど、
皆とっても仲良しで一生懸命だよ」



一緒にいると雷門に来たばっかりの事を思い出すよ、と名字が微笑む。
強化委員同士でこまめに連絡は取っているから目新しい情報はないが、
直に話すと伝わってくるものが違う。…俺の感想ではあるが。



「必死なだけでは勝てないがな」
「うん、そうだね。現実は厳しいねぇ」
「星章との試合、お前は出るのか?」
「んー…。多分、出られない気がする」



名字の事だから、それは指導者の考えを想像して言っているんだろう。
ランキング1位の格上相手に強化委員を使わないのは、何か策があるからか…
それとも只の能無しか。



「まぁ…お互い試合前だし、メンバーがどうとかの話はこれくらいにしとこっか」
「それもそうだな…。すまない、軽率だった」
「ううん、気にする事ないと思う。
星章は結構露出が多いから、私たちの方が情報量多いし…フェアになったという事で」
「…―――分かった、そういう事にしておこう」



強化委員の試合出場はチームの自由だ。だからこそ、いる・いない、出る・出ないは
試合の戦略の取り方が変わってくる。

その情報と基礎情報では価値が全く違うのが気になるが、
これ以上何か言うのは更に気を遣わせるだけなので止めておいた。
名字名前はそういう奴だ。


そうこう話している間に、駅の改札が見えてくる。



「…あ。私、駅のあっちに行くんだけど…」
「俺はこっちだな」
「残念、久しぶり話せて楽しかったんだけどなぁ」
「俺もだ、良い刺激になった」



お互いの岐路になって、どちらが示し合わせるでもなく一旦止まる。



「じゃあ次は…叶うなら、星章との試合で」
「あぁ」



挨拶代わりにハイタッチを交わすと、パンっと小気味の良い音が鳴る。

そのまま数歩ずつ俺たちの距離は広がるが、俺はふとある考えが浮かんで『名字!』と呼び止めた。



「なーにー!?」
「次の星章の試合、俺も出場しない!」
「えー!?それ言って大丈夫!?」
「これで本当にフェアになっただろう!」
「!」



一瞬、きょとんとした後『鬼道君のそういう所、ホント凄いと思うよ!』と名字は今日一番の笑顔を見せてホームへ消えて行った。


「(―――新しい雷門が何かを持っているというのなら、
その影響は名字だけに限った事ではないはず)」



なら、明日は練習後にでも『フィールドの悪魔』をけしかけてみるか。



「面白くなりそうだ」



試合まで時間がない中やるべき事が増えたというのに、
俺はどこか満たされた気持ちで帰路へ着いたのだった…―――。















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鬼道が3話のシャワーシーンにいくまでの自己補完です。
本当は4日目の一部分だったのですが、愛故に1話になりました。
鬼道有人、本当に罪な人です…!

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