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3日目:展望公園タイヤ引き100回

「名字でも苦手な練習、あるんだな…」
「うん…人間だからね…。こういうパワー要るのは管轄外…」



見た目のままだ。


そんな感想を俺、道成は抱いた。
華奢な体、特に女子にはこのタイヤ引き100回は相当堪えるだろう
…正直、GKで高威力のシュートを受け慣れてるとは言え のりかも心配だ。



「あばらが軋む感じがする…」
「おい、あんまり無理するなよ…!?」
「冗談だよキャプテン、さすがにそこまでやわじゃない…と思ってる」



会話の最後が不安をかきたてる。
強化委員を潰してしまったらサッカー協会に睨まれたりしないだろうか。

この練習は休ませた方が良いと監督…は駄目かもしれないが。
せめてコーチに相談すべきか。


逡巡していると、名字がじっと俺の顔を見ていた。何かついているか?



「ーーー…。」
「名字?」
「…そうだよねぇ…」
「??」
「ううん、何でもないよ。ただ苦手な練習も一緒にやっていきたいんだ、皆の一員になりたいから」



だから大丈夫。
言外にそう言って名字はひたすらタイヤをズルズルと引いて行く。



「(…ーーーそうだった。…強化委員だって、仲間だ)」



元のチームは違っても、目指すものは同じ。
なのに、無意識に部外者みたいに思っていた自分に気付いて恥ずかしくなった。

急いで名字の後を追いかけて、追い抜かす。



「まだ100回までかなり残ってる、気合い入れて行くぞ!」
「!」



伏せ目がちな瞳がふと前を向き、それから嬉しそうに細められる。

伊那国の人間じゃない名字が一員になりたいと言ったチーム。
少しでも、―少なくとも、さっきよりは― そのキャプテンに俺は近づく事が出来たろうか…ーーー。




***




「伊那国島ってどんな所?」



ようやく終わったタイヤ引きに伊那国イレブンが体を休めている所、
名前がそう投げかけた。



「私の家の海苔おいしーよ!雲丹も獲れる!」
「海が近いからな、魚は美味いと思う」
「万作の家は寿司屋だし、特にそうだろうな」
「海産物かぁ…こっちに来るのお魚、皆の島で採れた物かも知れないね!」



タイヤの重力から解放されてリラックスしてきたのか、この会話を皮切りに『ウチの家は…』『俺の所は…』など、ワイワイと盛り上がる。



「海近いってどれくらい?電車で一駅とか?」
「そんなにかからない」
「えっそうなの?じゃあ…自転車で10分とか?」
「自転車いらないし!歩いてすぐそこ、凄く綺麗で悩み事も吹っ飛ぶよ!」



かなり想像とかけ離れていた様で興味津々に聞いている名前。
聞き上手なのか、かなり昔の事から最近の事まで色んな話が出てくる。


開発こそされていないが自然豊かでその恩恵を受けている事。
島民同士の仲が良く、このチームは殆ど幼馴染と言える事。
人数が居なくて、それでも半分になってサッカーの練習に打ち込んでいた事。



「…本土ほどサッカー人気が過熱してる訳じゃない。
危険なんて大袈裟だ…でも、協会の決め事の下でしか俺たちはサッカー出来ない」



万作が帽子のツバを触りながら、伊那国島での部活の様子を語る。
のどかで、楽しくて、それでいて自由で。




「好きにサッカーしたいな。まぁ、その為にこっちに来たし、今やってるんだが」



のびのびとしたプレーが育んだものはとても尊いものだろう。
それだけに、今の状態は窮屈で仕方ないに違いなかった。

道成の言葉をゆっくり受け取るように間をあけた後、名前は言った。



「…ーーー続ける為には負けない事…だね」
「それ、監督も言ってたよね」
「そのまんまだよな」
「ふふ、そうだねぇ」



解決法は驚く程シンプルで難しい。小細工無しの直線構造は見えているものが全部。
ゴールまで真っ直ぐ突き進むしかないのだ。

それが分かっているから、文句をたれながらも全員が練習に取り組んでいる。
その先が明日人の言葉で言う、「サッカーを取り戻す」事に繋がると信じて。



「…―――大変だったけど、今日は良い日だったなぁ」
「何だ突然」
「皆の事がもっと分かった気がするから」



名前がそう言ってメンバーを見渡す。



「…さて、今日は早めに終わったしそろそろ帰ろうか?あんまり公園に大人数で長居しても迷惑だしね」
「賛成!私もうお腹ぺこぺこ…帰って海苔巻き食べたい!」
「お前…食い気凄いな」
「ま、全力でやったって証拠だな。よし皆、片付けて帰ろう!」



道成が音頭を取ればイレブンと名前が動き出す。
そうしてまた1日、時計の針が進んで行った…ーーー。










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大人数を書くのは楽しいし好きなのですが、文字でキャラの書き分けが出来ないのが難点です(致命的)


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