2日目:イナズマ坂上り下り100往復
『あら、田舎島がまた無駄な練習してるわ』
『田舎じゃないです、伊那国島…』
『剛陣先輩いなくて良かったでゴス…』
『ホントそれ…止めるの大変だしね』
『何コソコソ話してるの?』
2日目の朝。
初日にいた生徒会の数人が、練習前に集まった僕達―奥入、服部、岩戸の3名―をからかってきたんです。
東京の人って皆こんな感じなのかな…。都会って怖い。
『大体、杏奈さんも1週間待つ事ないのに』
『ねぇ〜』
『結果なんて見えてるわよね』
星章戦に僕らは勝ち目がないと言われている。
昨日も同じような事言ってたのに言い足りなかったのか、そういう内容を女の子達は繰り返して…。
さすがに僕ら3人もムッとして来た時、後ろから声がかかったんです。
『雷門の恥さらしにしかならないわよね』
『何が恥ずかしいの?』
『! 名字さん…』
昨日と変わらない穏やかな笑顔で現れたのは名字さん。生徒会の人もちょっとマズイって顔になって、ちょっと良い気味と思っちゃいました。
『だから…その。実力もないのにランキング1位に挑んだって無様に負けるだけって…言うか…』
『そっか…まぁ、そう思う人もいるよね。でも、皆必死で練習してるから、そんな事言わずに応援して欲しいな』
名字さんが丁寧に返すと、さすがにバツが悪くなったのか生徒会の子達はそそくさと散ってしまいました。
『名字さん…』
『興味持ってくれてる証拠だよ、大丈夫。私たちのフットボールフロンティア優勝前もこんな感じだったもん』
名字さんは庇ってくれただけでなく、『皆がやってる事は無駄なんかじゃないし、一生懸命やる事は恥ずかしくなんかないよ』と僕らを元気付けてくれました。
都会の子怖いとか思った僕は浅はかでした。どこだって優しい人はいるものですね…ーーー
***
「って事があってさぁ!さすが!名字さん超いい人!」
「優しいでゴス!」
「お前ら…っ、それ今必要か…!?」
「こうやってモチベーション上げてるんですよ…っ、一時的に疲れ忘れるでしょ…!」
ぜぇ、はぁと必死で基礎練をこなす伊那国イレブンと名前。11人と名前で走ると幅を取るため、4人ずつ時間差を作って往復することになった。
ここには小僧丸と一悶着あった3人が団子状態でお互いを叱咤して励んでいる。
「はぁ、でも…あんな人が強化委員で来てくれるなんて、僕らラッキーですよね…」
「もっと…他の中学に、派遣されてなかったのかなぁ?」
「されてても、おかしくないでゴス…」
「マネージャーも出て行ってるって、大谷言ってたしな」
それなのに、都内の強豪中学でなく自分達に派遣される理由とは何か。
…何だか釈然としない。
「理由があるのかも知れないですけど…流石に名字さんの意思だけじゃ派遣先決まらないでしょ」
「まぁ…それは違いねー…」
「…何か難しそうな顔してるねぇ」
「あれ!?名字さん!」
「大丈夫?疲れて来てスピード落ちてるみたいだけど…」
後ろから追いついて来たようだ。さすが、強化委員の肩書きは伊達ではない。耳を澄ませば後ろから剛陣や日和の騒いでいる声が間近だった。
「抜かされちゃうでゴス」
「よーし、急ごー!後ろには負けないぞ!」
「いや、競争じゃねぇんだから別に良いだろ…」
「いや、ダメですよ。混雑しないために時間差作ったんだから」
「そうだね、ペース守って頑張ろう!」
心に引っかかるものは出てきたものの、その疑問を口にする余裕はなく。
ただただ必死に走り続けた。
そうして太陽が傾きかけた頃、ようやく坂の上り下りを終えたのだった…ーーー。
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奥入君の一人語り難しい…もっとしゃべっても良いのよ…
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[mokuji]
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