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デート日和はrainyday(鬼道/無印)

「ゆーうとっ!」
「! お前か…驚かせるな」
「ごめんごめん!それよりも、ねぇ 一緒に帰ろ!」
「構わないが…迎えがあるからリムジンまでの距離しかないぞ」
「大丈夫ー」


校舎の昇降口。
どこからともなく飛び出した名前は、鬼道を後ろから脅かしてからその横に傘を並べた。


「仲良くて羨ましいッス〜」
「鬼道、今日は袴田さんに歩いて帰るって言ってみたらどうだ?」
「下校デートか〜、いーなー」


横から からかいがてら囃し立てる者数人は、ゴーグル越しの鬼道の視線で押し黙る。
そんな光景に名前はケラケラと笑って彼に溜息をつかせた。


「…今度から先に言っておけ」
「えー?…ううん!気にしないで。
私の好きなタイミングで有人の事待ってるだけだし」
「また驚かせに来るつもりか?」
「そういう事!」


悪びれなく言う名前を鬼道は軽く小突く。
痛ーい!と大袈裟にリアクションすると歩幅が広がったので、名前も急いで後に続いた…『冗談だよー、ごめん』と平謝りもつけて。


「(ーーー…下校デートかぁ)」


2人で寄り道、皆はそんな事してるのかな。
ちょっと、良いかも知れない。
うっすら浮かんだ羨望は鬼道に追いつくと束の間の会話に紛れて消えた。





梅雨の時期に入ると雨の日が多い。
降られると屋外の運動部は室内で筋トレやミーティングなど出来る事をする。
とは言っても時間いっぱい出来るかと言うとそうでもない。
場所の問題もさることながら、脳も筋肉も使うには適正な時間というものがあるのだ。
何でもやりすぎは怪我に繋がる。

そんな訳で雷門サッカー部は雨天時に早く切り上げる事が多い。
それを名前は最近知って、鬼道と一緒に帰るのを楽しみにしている…例え、校門前に待つリムジンまでの短い距離であったとしても。


「(今日はよく降るな…)」


終礼のチャイムが鳴ってからしばらく経っているが、降りが弱くならない。
今日は通り雨だと聞いていたのだが当てが外れたかも知れないな、とぐったりする。
向かいの校舎の中で階段ダッシュなどをしているサッカー部の面子を見ながら、あれが終わる頃には雨止んでないかな…と都合の良い願望に頬杖をついた。

本来なら携帯をいじっているのだが、ここの教室は電波が悪い。
それによく連絡を取る相手は今、鋭意筋トレ中だろうから触る必要もなかった。


「(有人まだかな…)」


校舎に響く元気の良いホイッスルの音はダッシュがまだ続いている証拠だ。
仕方ないか、と名前は渋々授業の復習をしようとノートを開いたのだった。


「(んー、数学は応用はよく分かんないし基礎だけ解いて…後は塾で聞こう)」


名前が約束なしで鬼道を待つと決めているのは雨の日だけ。
サッカー部がグラウンドで練習する日はさっさと下校し、塾に向かうのだ。
部活終了が遅い日は待っている時間が長くて手持無沙汰だし、更に一緒に帰るとなると塾の始業までに時間が足りない。

『雨の日だけとか名前それで良いの?』
『部活入るから塾辞めるって言えば親も納得するんじゃないのー?』
『ってかサッカー部のマネージャーになって、いつも一緒に帰ったら良いじゃん』
『そうそう!』

友達は代わるがわるよくそんな風に言う。
確かにサッカーの試合で活躍する有人はカッコ良くて好きだし見ているのも悪くない。
けれど、サッカー自体がそこまで好きなわけじゃない。

それに、実行した所で鬼道という人は嬉しく思ってくれるだろうか。
付きっ切りで彼のサポートをしていく訳ではないし、自分の事だからしたくない事はやらないだろうと思う。
雑務もこなし、誰にでも分け隔てなく接する同級生・木野秋を見ているのでそんな事では失礼を超えて無礼だと思った。
だからこれから先もマネージャーはやる気がない。

『ねぇ。有人は私がサッカー部のマネージャーになったら嬉しい?』
『何だ急に』
『いや何となく…友達がそうしたらどうかって言うけど、私は誰の為に部活するのか分からないから微妙って思ってて…で、有人はどうなのかなって』
『お前がそう思うならそれで良いだろう』
『ちょっと〜、アナタの意見を下さ〜い』
『聞こえないな』

鬼道に聞いてもこんな風にはぐらかされて終わった。
とは言え、名前としては学業で親に何かを言われる事を無くして自由に出来る時間を満喫したい気持ちが強い。
『鬼道の出る試合を見に行きたい』『差し入れでも持っていこうかな』『もし休みが重なったら遊べないかな?』…等々、無限に湧いてくる計画の為に時間を作っていくのが楽しかった。

なので、鬼道の意見が友達と同じでないのは寧ろ助かる。
成績が落ちたら制限されるものが絶対出てくるのでそれを避ける方が重要なのだ。


「…あ」


そうこう考えている間に、サッカー部の階段ダッシュは廊下を使っての手押し車や腹筋…筋トレに変わった。
もたもたしているとキリの良い所で終わってスキンシップ…もとい、待ち伏せ出来なくなってしまうかも知れない。
数少ない楽しみが失われるのはよろしくない、と名前は開いたノートに問題集の展開式を書き出し始めた。





「(ーーー…有人、まだ来てないよね)」


しばらく後。
練習終わりの声が聞こえたのだが、キリの良い所まで計算してしまおうとしたのが良くなかった。
思ったより時間をかけてしまった。
解き終わった瞬間、教室から手早く ー乱雑ともいうー 片付けた鞄の中は割と悲惨な事になっていそうだけれど、鬼道と帰る為なので取り敢えず今は目を瞑っておく。

兎に角、鬼道が着替え終わって帰っていたら残念過ぎる!と昇降口まで一気に駆け降りてきて今に至る。


「(む…ちょっと急ぎ過ぎたかな。でもいつもなら後ろ姿が見えるくらいだと思ったんだけど…)」
「−−−…名前」
「ぅわ!!!?」
「ふ、俺だ。意外に驚かせられるものだな」
「もー、有人!?心臓止まるかと思った!」
「いつもの礼だ」


してやったりという笑みで背後から声をかけてきたのは探していた鬼道。
良かった、帰ってなかった…という気持ち半分、お鉢を奪われたという気持ち半分で複雑だ。


「…有人、いつも大人っぽいのに時々同い年になるよね」
「たまに相手してやらないと、どこかの誰かが拗ねるからな」
「えー何ソレ」


鬼道の言う事は的を得ていて、名前は相手にされないより、少しノッてくれたり反応があった方がちょっかいがかけやすい。
それを分かって駆け引きしてくる所が何とも意地が悪い…良いように言えば名前をよく分かっているとも言えるのだが。


「何か悔しい…上手く掌で転がされてる感が」
「『感』じゃなくて事実だが」
「酷い!」
「これでも司令塔なんでな。知ってる人間の動かし方も動き方もある程度は分かっている。…さて、そろそろ行くぞ名前」


そう言うなり、鬼道は傘を開く。
あぁもう帰路につくのか…まだもう少し、何でもない話をしていたかったな、など思いながら名前も後に続いた。

…のだが。
少し進んで見た感じ、まだ校門前までリムジンは来ていないように見える。
結構な雨量で先が僅かに霞んでいるとは言えそれくらいは見えても良いものだが。


「…?」
「どうした」
「有人、今日 袴田さんまだ来てないの?傘差すより校舎内の方が濡れないんじゃない?」
「今日は袴田に迎えを頼んでいない」
「?何で?」


意外な返答だった。
名前の感覚からしたら雨の日の方が迎えに来て欲しいものだが、何か別の場所で用事があるのだろうか。
クエスチョンマークがいつまでも消えないのを見かねたのか鬼道は名前の疑問に答えた。


「一日中雨が続く予報だったからな。お前、俺を待って帰るだろう」
「えっ!何で?バレてたの」
「バレるも何も…」


俺が気付かないとでも思っていたのか?と逆に聞き返された名前は うっと言葉に詰まる。
『雨の日は相手を待って帰る』
言われてみれば、こんな単純な法則性で何度も脅かす悪戯や帰る事を繰り返していたら鬼道が分からない訳がない。


「何だぁ…今度はいつビックリさせようかと思ってたのに」
「ふ、残念だったな」
「でも、本当に私と歩きで帰って良いの?」


リムジンに乗らない鬼道の行き先は最寄りの駅だろうか。
電車に乗る彼をなかなか想像出来ないが、ホームまで行けるならいつもより随分と長い間一緒にいられる事になる。


「俺と一緒は何か都合が悪いのか?」
「ううん、私は嬉しいけど一応確認。
だって有人、部活終わってからも家で難しい勉強あるでしょ?
帝王学だっけ、おじいちゃん先生が来るの」
「おじ…、見た事もない相手に不躾だぞ名前」
「だってお名前知らないし」


ともかく、車で帰るより遅くなるし疲れるだろうから少し心配だ。
それを伝えると『見くびるな、それくらいの体力はある』と鼻で笑われた。
家庭教師の先生も元々部活の後に来るぐらいだから時間の余裕はかなりあるらしい。
…それなら、まぁ こちらとしては気も遣わなくて良いし万々歳か。


「何か、聞いてみて良かったかも」
「?」
「気兼ねしなくて良かったんだなって安心したって言うか…。
私だけなら良いけど、ほら、有人の時間もあるし」
「…それはお前が気にする事じゃないな。自分の時間は自分の為に使うものだ。余暇でも学業でも、何でも」
「ふぅん…?えーと…、じゃあ私と一緒に帰る時間は有人が自分の為に使ってる…って事?」
「そうだな。だからお前が余計な気を回す必要は無い」


間髪入れないきっぱりとした返事は鬼道の本音を表しているのだろう。
同じ時間を共有するのが苦ではないと、名前との時間は自分の為のモノでもある、と。
言い切ってくれる事に心拍数が上がった。


「(…やば、嬉しい。変顔してないかな私)」


言うまでもなく、自分も同じ気持ちだ。
鬼道と時間を使うのは好き。
たった数分 校舎から校門までの間であっても大事にしたい『自分の為の時間』、それを彼も同じように感じてくれていたと知っていつになく浮かれてしまう。


「…私も一緒。お揃いだね!」
「それは光栄な話だな」
「んー…?本当に思ってる…?」
「そう言っているだろう」
「えへっごめん、嬉しくて。
ねぇ、今度の雨の日は帰るだけじゃなくて下校デートしよう」


以前、誰かが放り投げた下校デートという言葉。
本当はとても魅力的に聞こえていた。
今の話だけで言えば特に鬼道も嫌ではない筈だが…勢い任せ、誘うだけならタダだろう。
…そこまでの時間はないとか、わざわざ雨の日に行く意味はないとか、もし断られたらショックかもと思いながら言うと、変に声が震えてしまいはしたが。


「(どうだろ…)えっと…、無理にとは…ーーー」
「…」


反応はまだない。
考えているのか、自信なさげな声色では届かなかったろうか。
不安を取り除きたくてちら、と伺うと『きちんと聞いている』と鬼道の瞳が自分を一瞥する。

傘の薄い影の下、ゴーグルの奥。
改めて一旦立ち止まると、彼の瞳は名前をしっかり見つめた。


「…お前の都合がつくなら、俺は」


−−−今日でも構わないが。
雨を傘が弾く音こそあれ 掻き消されはしない、そんな凛とした鬼道の声が響いた。


「えっ…えっ?」
「下校デートとやら、今から行くか?」
「っ本当?!良いの?用事ない?」
「あったら最初から断るさ。お前こそ大丈夫なんだろうな、塾は」
「そんなの!有人とデート優先に決まってるじゃん!」
「オイ…間に合う時間を逆算しておけよ?」


『遅刻は俺が許さん』。
そう厳しい調子で言いながらも、名前の言葉に鬼道は口角を緩やかに上げたのだった…ーーー。













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(2020/6/10)

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