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神様からのお年玉(不動24/GO)

1月1日朝、都内某コンビニエンスストア。

除夜の鐘はとうの昔に鳴り止み、カウントダウンを終えた人々の来店ラッシュも終えた店内はとても静かだ。
レジ横にあるホットケースの起動音が僅かに響いている。



「(−−−…後、7分くらいかぁ)」



名前の夜勤が終わるまでの残り時間だ。
視界に入るデジタル時計をちらりと見て確認する。
この調子ではもう終業までにお客様は来ないかな、と予想する。



「(いや寧ろもう来ないで良いか、早番に交代するまではもう来ませんように…)」



カウントダウン特需とでも言おうか、こちらは既に深夜帯の購買ラッシュでくたびれている。頼むから大人しく帰らせて欲しい。
そんな怠慢な願望を思い描いていると自動ドアが開き、特有の音楽が鳴る。
残念だ、しかし恐らくこの勤務中最後のお客様。
慌てて気だるげな顔を接客用のモノに戻し、『いらっしゃいませ』と呼びかける。

買うものを決めていたようでサクサクと品物をレジカゴに入れるとあっという間にレジの前に持ってきた。



「ご来店ありがとうございま…あれっ不動君?」
「あ?…名字か?」
「そうだよ、わぁ〜こんな所で会うとは!明けましておめでとうございます〜」
「あー、ハイハイ…オメデトーゴザイマス。ってか何でこんな所にいんだよ、転勤か?」
「いつものコンビニは元旦休日対象なの〜。でも正社員だから開ける店舗のヘルプにね」
「は、ご苦労なこった」
「いやぁ、決して自主的ではないから…本日は当店のポイントカードお持ちですか?」
「あぁ、…お前に気ィ取られて忘れてたわ」



不動はそう言って大人しくカードを出した。
いつも勤務しているコンビニでも不動に会う事はあるが、そこではいつもカード提示があるので聞いてみた。正解だったらしい。
言ってみて良かった、とにこにこと登録を済ませたカードを返すとムスッとした顔で『把握してんじゃねーよ』と言った。



「ではお品物、失礼致します」
「普通に話せよ気持ち悪ィ」
「え〜、まだ勤務中なんだけど…まぁ誰もいないし小声ならいっか。合計で892円ね」
「いつも思うけどお前レジ早すぎ、話す暇もねーよ。…コレ追加」
「カフェオレね、ではお会計変わりまーす」



不動とは学生時代、割とつるんでいた。
腐れ縁が切れたのは不動が高校を卒業して単身海外に渡った時だったが、彼が向こうに行ってからはニュースでよく活躍を応援していた。
だからテレビの向こうにいる筈の不動がいつも勤務している所に来た時は本当に驚いたのだ。
これはお互い様だったようで初めてレジ前に来た時は目を見開かれたものだ。
それからは自分がレジに立っていると選んで並んでくれる。彼曰く『早いから』だそうだ。

ちょくちょく来るのを見ると、恐らく近くに住んでいるかよく来る場所の最寄なのだろうなと勝手に思っているのだが
平素に彼が来る時間帯はなかなか忙しくて世間話などする暇があまりない。
今日の様に静まり返っている事は本当に極稀。

もう殆ど勤務も終わりなのもあり、折角ならちょっとした雑談などしてみたい気持ちはあったのだが…レジに立つと望まれるのは正確・迅速。
いつもの癖でレジ処理を高速で終わらせてしまっていた。
最後に追加された品物だけ、丁寧且つゆっくりとした動作に切り替えた。



「なァ」
「うん?」
「今日、仕事何時に上がりだよ」
「もう早番さんに変わったら終わりだよ、後1分くらい。夜勤だったの」
「…お前大晦日の昼、向こうのコンビニいたよな?」
「不動君、買いに来てくれたね。早番残業からの夜勤疲れた〜。別店舗だからって加味されないのおかしいよね」



文句を言いつつ不動の買った物を袋に入れ終わる。ありがとうございました、と手渡した。



「んじゃ、名字サンはこの後は帰って寝正月かァ?」
「ううん、折角だからこの近くの神社に初詣行こうかなって。そういう不動君は?」
「…教えてやんねー」
「えぇー」



受取り際に愛想の無い事を言って不動は出口に向かう。
顧客の行きも帰りも区別出来ない自動のウェルカム音が寂しく鳴り響いた…ーーー。







「(思えばクリスマスも大晦日も元旦も労働しちゃったな〜、まぁ社会人だししょうがないけど)」



誰かが休めば誰かが働く。
一概にそうとは言えなくとも、誰かが何かをする為にまた別の誰かしらの手が必要なのだから仕方ない。
割り切って出勤したのに次のシフトの人間が遅刻して来たので残業してしまった。
割に合わない。神様の馬鹿と毒づいた。



「…オイ」
「ーーー…えっ不動君だ!?」
「遅っせーーよ」



余計な心労を足した体で外に出ると、先に出て行った不動がコンビニの壁にもたれて不機嫌そうにしている。近寄ると怠そうに体を起こした。



「1分で終いじゃなかったのかよ」
「次の人が遅れて…と言うか待っててくれたの?」
「じゃなきゃ30分も突っ立ってねぇよ」
「うわぁ…寒いのにゴメンね。何か用だった?」
「鈍感かよ、初詣行くっつってたろ」



気まぐれだけどな、と言うと不動はガサッと自分のコンビニ袋を乱暴に漁って最後に買ったカフェオレを名前に押し付ける。
買った時ホットだった缶はもうやや冷めてきていた。



「あっこれはわざわざ…どうもありがとう!っていうか付いて来てくれるの?」
「そうだって言ってんだろ」
「わぁ、本当!嬉しいなぁー、長い時間話すの楽しそう!」
「話ねえ…高校以来だろうな。いつも買いに行ってやってもお前素っ気ねぇし」
「お客さんいる時に世間話は出来ないよ〜大体いつも後がつかえてるから!」
「冷てぇな名字チャンは」
「うわー!その呼び方久しぶりに聞いたー!!」
「あー、分かった分かった。いちいち騒がしいのは変わらねぇなお前」



『行くならさっさと行くぞ、ゴミゴミしたトコは好きじゃねンだよ』と先に歩き出す不動を小走りで追いかける。
ペースが落ち着くと直ぐ、名前はぬるく冷めたカフェオレのタブを開けた。
口を付けながら歩くと疲労を和らげる甘みとコーヒーの香りが流れ込む。
重労働の後の一杯は適温でなくとも美味しかった。

なんだ、正月に出勤した甲斐はちゃんとあったのか。
文句垂れてゴメンね神様、次からは気を付けますと心で呟いた。



「…何だよ、何ニヤニヤしてんの」
「うん?良いお年玉貰ったなぁと思ってさ」
「はァ?何の話だよ」



怪訝な顔をする不動に『教えてやんねー』と口真似すると素早くデコピンが飛んだ。
缶も手も一緒に負傷箇所にあてて抗議すると彼はフンと鼻を鳴らした。反省の色は見えない。



「新年早々、暴力はたらいてたら神様に罰当てられるよ不動君!」
「ほーぉ、そりゃ楽しみだわ。どんな天罰がくんのかねェ」
「先ずはきっと大凶でしょ」
「運試ししたいって事か?」
「おっそうだね、どっちの方が良い運勢か比べよう!」
「面白れぇ、負けたら買った方の要求飲めよ」
「いいよぉ」



二言はなしだぜ、と不動がニヒルな笑みを浮かべる。
深夜からある程度時間が経ったからか、目指す神社への人通りはまばらだ。この1番勝負の結果が出るのも然程時間はかからないだろう。



「(勝ったら…、勝ったら何お願いしようかなぁ…。
負けたら…まぁ不動君は意外と良心的だから無茶振りはしないでしょ)」



晴れた冬空の下、神仏に委ねられた勝敗の行方。
お年玉の追加となるか否か、名前はまだ知る由もない…−−−。











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(2020/1/1)

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