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半分メイクが終わったら(鬼道/アレス)

近年、製薬会社がその技術を以って別業界に参入することは珍しくない。

星章のスポンサーである『キラスター製薬』もその試みを
美容化粧品で行なっていくつもりらしく、今回サッカー部へも試供品がバラ撒かれた。



「…対象、女の子にした方が良かったんじゃないかな?」
「だからお前を誘ったんだろう、俺がメイクしてどうする」
「見届けて欲しいのかと」
「馬鹿を言うな」
「ふふっ冗談だよ、ごめんね。この試供品を使って感想言ったら良いんだよね」



事のあらましを話せばいつものように微笑む名前。
どうやら頼まれてくれるようで試供品を渡せば興味深げに羅列された文字を拾った。



「『初めてさんでも大丈夫☆女子力増し増しメイクスタートキット、秋メイク編』…。
 なるほど、少量のキットで試してもらって良かったら同じ色とか
 使い心地の普通サイズで買って貰うんだね」
「…試さないのか?」
「えっここでやるの??」
「駄目か?」
「…んーー…。駄目ではないけど…」



何の為に俺の家に招いたのか、余り合点がいってないようだった名前。
目の前の苦笑へ向けて実演を促すと珍しく渋られた。

…そうか、例え知り合いでもメイクの過程を晒すのは着替えを見られる感覚と同じか?



「…すまない、デリカシーが無かったか」
「う〜…まぁ、人前でやる事ないからちょっと恥ずかしいけど…。
 有人君の宿題の為だしね。うん、大丈夫!」



そう自己完結して『洗顔しないといけないから洗面所借りても良い?』と尋ねる。

踏ん切りをつけたら名前は行動が早い。
袴田に案内されて客間を後にする背中は、いっそ頼り甲斐すら感じた。



***



洗顔をして戻ってきた名前は慣れた手つきでメイクを始めた。
その前後が分かるように先ずは半分だけやって見せてくれるらしい。



「メイクなんて出来たんだな」
「私、実は女の子だから。知ってた?」
「知ってた」
「本当に〜?」



冗談めかして手早く下地とやらを仕上げる。
いつもは日焼け止めとリップクリームくらいだという。

部活をすれば汗で崩れるので当然ではあるが
『殆ど素っぴんだから、メイクしている今の方が何だか気恥ずかしい』らしい。

普通は逆だそうだが、俺にはどちらもピンと来ない。



「そう言えば星章の他の人達はどうしてるのかな」
「家に頼める者がいるなら頼んでいるんじゃないか?
 早乙女と天野に検証と称してソレを塗りたくっていたのは見たが…」



メンズコスメ参入でも提案するつもりなのか、ただ遊ぶだけなのか。
筆頭は佐曽塚、加勢は折緒、興味深げに見ていた他の面々。
まぁしばらくすれば真面目にやれと水神矢が声をかけるだろう。

そうこう考えている内に半分メイクをし終えた名前が声を掛けてくる。



「出来た〜。取り敢えずこんな感じ」
「…、…濃いな」
「服の色が秋めいてくるとこれくらいが良いのかな?
 衣装負けしないって言うか…私も極めてるわけじゃないから分からないけど」



パウダーに含まれるパールが瞬きに合わせてキラキラと輝いた。

縁取られた目元は普段より大きく見えて、瞳はこんな色だったかと改めて気付くし、
普段とは違う紅の口元にはどうしても目が向かう。
スターターセットにしてはなかなかインパクトのある内容だった。



「半分だけだと抽象画のようだな」
「えー酷い。良いよ、もうフルメイクしちゃうから」
「…、なら俺がやろう」
「えっ…。お化けにされるやつかな?」
「失礼だな、左右対称にするだけだ」



向かい合わせてメイク道具に手をつけると、
本当にやる気なのと名前は気恥ずかしそうに身を縮める。



「…やりにくいから背筋を伸ばせ」
「いや、あの…、さすがに恥ずかしいよ…」
「なら目を閉じていたらどうだ?」
「…はーい。興味深々だねぇ」



メイクに興味が湧いたというよりは単に触れたくなっただけと言ったら名前は笑うだろうか。

目元にラインを入れたり、その瞼に、肌に色を乗せる為
触れる場所は柔らかで指先にじわっと熱を伝えてくる。

大人しく目を瞑っている顔は次第に非対称ではなくなっていく。

最後は唇の半分に紅を引けば戯れは一段落。後はグロスとやらを塗ればいいらしい。
付属してある説明書は存外親切な物だった。



「…んむ。…終わった〜?」
「あと少しだ」



小さな容器から蓋と一体化した筆先を持ち上げると、ツヤっとした液が顔を見せる。
ここまで来てはみ出されるのも嫌だろう、手元が狂わないよう『顎、触るぞ』と断れば
『んー』と返事が返ってきた。
俺がメイクし終えるまで口は開けない方が良いと思ったのか。

そっと手を添えて名前を少し上に向かせる。
目を閉じたままだとキスを強請られているような錯覚に陥って
変な気分になってきてしまう。

否、やらせたのは紛れもなく自分で名前に非は無いのだが。



「…………」
「…?」
「塗り過ぎた」
「有人く〜〜〜〜んっ」



雑念で疎かになった手元の筆は必要以上に唇に光源の素を落としてしまった。
俺の言葉に閉じていた口も思わず開き、雫が全体に馴染むとぷっくりと柔らかな曲線を強調する。



「あっ、目も開けちゃった!…でも、もう終わりだから良いよね?
 どうだった、メイクしてみた感想は?」
「そうだな、取り敢えず俺の前以外ではメイク禁止だ」
「えっ何故」



この名前を知っているのは俺だけで良いという独占欲が顔をもたげる。
他の男に見せるのはどうにも我慢が出来なさそうだ。

キラキラと視線を惹きつける瞳、ほの赤く染まった頬、艶やかに光る唇、そして無防備な表情。


…―――俺はとうとう堪え切れず、噛み付くようなキスをした。












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RIP SERVICE/riricoさんと夏への扉/エミリアさんにお題を頂いた
メイクがテーマの夢を書いてみました!
鬼道さんは基本何でもできる才能マンだって思うんです…!

メイク道具、詳しくないので今回は取り敢えず全体的な感じにしましたが、
1アイテム毎に奥が深いですね…!面白いと思ったのはリップティントでした。

riricoさん、エミリアさんのみ持ち帰り自由とさせて下さいませ。

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