この手をとって

久々に何の予定も無い休日ー。

「今日は休みなんですよ。知ってました?」

笑っているのか怒っているのか、微笑みながら伊作は包帯を巻いていた。

その範囲はほぼ全身に近かったが、慣れているせいか巻き終わるのに他人に任せる程時間は掛からない。

「うん、知っているよ。伊作くんの事なら何でも、ね」

「怖いなぁ」

包帯の残りをしまって目の前の忍装束の男を見やる。

「て言うか、休みだから久々に町に出掛けようと思っていたのに…」

伊作が口を尖らせながら呟くと、男が一瞬固まるのが分かった。

「雑渡さん?」

「ああ、御免ね。伊作くんがあんまり可愛い顔をする物だから」

「…僕は男ですから、可愛いと言われても嬉しく無いんですけど」

頬を膨らませながら、上目使いで自分を睨む少年に再び心を奪われ振り回されっぱなしだな、と自嘲する。
天下のタソガレドキ忍者の組頭が、聞いて呆れると部下に言われそうだが構わない。

伊作の手を取って囁く。

「一生私の包帯を変えてくれないかな?」

伊作はきょとんとした顔で雑渡を見上げた。

「…雑渡さん」

「何?」

「…タソガレドキへの勧誘はお断りします。せっかくのお誘いですが、やっぱり戦好きな城に仕えるのは自分の性分に合わー」

「違う違う!そうじゃなくて、個人的に君を口説いているんだけど…」

「はい?」

どう伝えようか考えたが、間接的に言っても無駄だと思い、伊作の両肩に手を置いてそのまま言葉にする。

「君が好きだから側に置いて、一生私の世話をして欲しいって事なんだよね」

流石にここまで言えば、と思った矢先ー

「ですから、いくら僕の包帯捌きが好きだと言って下さっても…」

「…君それ本気?」

はぁ、と伊作の肩に頭を落とした瞬間、勢い良く襖が開いた。

「伊作!タソガレドキが来てるって本当かっ!!」

「こんにちは。残念ながら本当だよ」

伊作の肩を抱く雑渡を睨み付け、自分の方に伊作を引き剥がす。

「うわ、留!何?!」

勢い良く引っ張られ留三郎の腕の中に抱かれる形になった伊作がもがく。

「帰れっ!!包帯なんざ部下にやらせりゃいいだろうがっ!」

「包帯は二の次で伊作くんを口説きに来てるつもりなんだけどな」

「僕の処置が気に入ってタソガレドキに勧誘してくれてるんだけどー」

「はあ?!」

「いや、だからしてないって」

留三郎が雑渡を変わらず睨んでいると、もぞもぞと体を捩り始めた。

「留、苦しいよ…っ!そろそろ離して!」

「わ、悪い!」

伊作を腕に抱いたままだったと気付くや否や、顔を赤らめて慌てて手放す。

「どうしたんだよ、留。顔真っ赤だよ。熱あるんじゃない?」

そう言って心配そうに額に手を置き、斜め上を見上げた。

その仕草がまた同い年の男がする物と思えない可愛さで更に留三郎の顔に熱を運ぶ。

「い、伊作。もう、大丈夫だから」

「駄目だよ。こういうのは最初の診断が大切で…」

「いや、だから熱じゃなくてお前のせいだから」

僕?と視線を留三郎に戻す。

「…好いた奴とくっ付いたら誰だってこうなるだろ?」

「!!…留」

伊作が両手で口を塞いで後ろに飛び退く。

遂に言ったー留三郎が男らしく勇気を振り絞った自分に浸っていると、伊作が嬉しそうに叫んだ。

「留…おめでとう!遂に留にも好きな子が出来たんだね!」

「…え、え?」

「留は中々浮いた話をしないから…でも良かったね!ねえ、誰なの?教えてよ」

再び留三郎に近寄って着物を掴み、ねえねえと体を揺らす。

「だから、お前だって…」

「僕の話はいいから留の相手を教えてよ〜」

一瞬の内に奈落へ突き落とされた涙目の留三郎を見て、自分もああも情けない姿なのかと雑渡が溜め息を付いた。

「伊作、何をしているのだ?もう昼になってしまうぞ」

突然襖が開き、綺麗な男が三人を見下ろす。

伊作以外の二人の男(しかも一人は現役忍者の組頭)が、がっくりと肩を落としている光景に目を見開いた。

「あ、仙蔵!待たせて御免ね。もう終わったから行こうか♪」

掴んでいた留三郎の着物からさっさと手を離して立ち上がる。

「じゃあ留、またその話は後でね。雑渡さんもまた薬が切れたら来て下さい。ではさようなら〜」

そう言って廊下で待つ仙蔵の腕に自分のそれを絡ませて嬉しそうに部屋を出て行った。

置いてきぼりの男が二人ー。

「…どうして君は彼が好きなの?」

「…あんたこそ」

「いつかあんな風にこの手をとってくれるのかな」

「知らねーよ。俺に聞くな」

暫く動けず、普段なら考えられない組み合わせで恋愛についての相談が行われた。
そしてこれを境に恒例行事となる事を二人は知る由も無かった。


(完)

鈴夜様、伊作が小悪魔になってしまいました。雑渡さんも留三郎も情けない感じですみません〜(;´Д`)



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mokuji



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