浮気

「浮気…されたんだ」

すっかり夜も更けた忍たま長屋ー。

布団に倒れ込んだまま、顔だけこちらを向けて涙目で訴える美少年を見て、はぁっと溜め息を付いた。

「…きりちゃん、絶対勘違いだよ」

「違う!絶対にそうっ!」

「浮気って…」

あのへたれの土井先生が?という言葉は飲み込んでおこう。

「何でそう思ったの?実際に何か目撃した訳じゃ無いんでしょ」

そう尋ねるとゆっくり起き上がって正座した。

「…匂いが…したんだよ」

「匂い?」

何の、と目だけで問い掛けると小さな声で呟いた。

「…白粉の」

「…」

「…何だよ」

「…それだけ?」

「それだけ、とは何だよ乱太郎ー!!」

そう言って抱き付いて来る姿はとても可愛らしいんだけれど…

“恋は盲目"とはよく言った物だ。
あの恋愛に疎い色男と恋仲になってから、何度こんな風に泣き付かれている事かー。

しかも大概が勘違いとか言葉足らずとか、結局こちらが当て馬になる羽目になるのだ。

今回だってそうに決まっているのに…。

「考えても見てご覧よ。白粉なんて女装の度に使うじゃない。誰かから依頼されて情報収集の為に出掛けたんじゃない?」

盲目な彼に諭す様に説明するとぶんぶんと首を横に振った。

「それは無い。だってその日は…夜まで先生の部屋に居て…」

いや、顔赤らめなくていいから!
何してたかとか聞くつもりないし!

「…それで喧嘩して、先生の部屋を飛び出したんだ。だから…その後忍務なんて考えられないし…」

「確かに…」

見る見る内にまた大きな鈴目に涙が溜まる。

「きっと…俺に飽きてあの後誰かと会って、それで…」

「だからそれは無いって…」

先生がどれ程自分にぞっこんか知らないんだもんなぁ。

けれど真剣に目に一杯涙を浮かべる彼が可哀想に思えて来た。

「聞いてみたら?本人に」

「ヤダ!だって…俺が妬いてるみたいだし」

…日本語話してる!?
あからさまに妬いてんじゃん!

呆れて何も言えないで居るとぐいっと顔を近付けて来る。

嫌な予感が…

「だから!協力してくれるよな?親友だもん」

そんなきらきら目を輝かせて、嫌だと言える雰囲気じゃない、よね…

隣で既に夢見ているしんべいに、たまには代わってくれと泣きつきたかった。



拗ねている理由は何となく分かっている。

多分喧嘩した(と言っても学園でも口付けくらいして欲しいと言うきり丸が拗ねて部屋を出て行った)晩からだろう。

勘違いしているんだろうな。
また乱太郎に泣きついているか。
一言違うと言ってやれば良いんだろうが…

自分もつくづく意地が悪いな、と苦笑いする。

今日も授業中睨み付けるか、反対に目もくれないかどちらだろう。

そう思って教室に入った。

「「おはよう御座います!」」

「みんな、おはよう。宿題はやって来たか?」

ちらりときり丸を見やると睨み付けていた様子で一瞬目が合った。
ぷいっとあからさまに視線を逸らされる。

ーん?
何かいつもと感じが違うような…

ふといつも巻いているマフラーを付けて居ない事に気付いた。
そしてー。

…首筋に赤い痕。
意味は分かったけれど…

大人びているんだか子供なんだか分からないな。
まぁ、妬かせて喜んでいた自分も子供か、と一人苦笑した。

「きり丸、昼休みに私の部屋に来るように!」

授業の終わりに声を掛けると嬉しそうにニヤリと笑って乱太郎を見ている。
うっすらと目の下に隈を作っている彼が不運だった。



「…何ですか?僕忙しいんっすけど」

昼休みにやって来たきり丸は不機嫌を装っていた。
本当は自分の仕掛けた罠に掛かった、と内心喜んでいる筈だ。

「…きり丸、お前が思っているような事は何も無いからな。あの晩お前が部屋を出て行った後、忍務から戻られた山田先生と会議をしていただけだ。勿論伝子さんと、だけれど…」

そう言うと顔を赤く染めて俯いた。

いつもの様に勘違いだった、と恥ずかしがっているのだろう。

さて、次は私の番だな…

「お前、これは何だ?」

近付いて首筋の痕に触れた。
びくっと肩が上がる。
消え入りそうな声で呟いた。

「…先生にも焼き餅妬かせようと思って…乱太郎にお願いしたんです。先生、見たら焦るかなぁって。けど…上手く痕にならなくて、何回も何回もやって貰って…」

「…」

「…先生?」

首を傾げているきり丸をぐいっと引き寄せる。

「わっ!」

よろけて胸に飛び込んで来たきり丸の痕の無い方の首筋に噛み付く様に口付けた。

「んっ…!せ、先生?…いたっ」

吸い上げてゆっくり顔を離すと、茹で蛸の様な顔で口をパクパクしているから吹き出してしまった。

「…せんせぇ」

「今後はこんな事しないように。いくら乱太郎が相手と言っても…私以外の男にさせるのは面白くないからな」

そう言って抱き締めると先生の首にも付ける、と耳元でしきりに言うので、どうせ大した痕にはならないだろうと許可したら、とんだ内出血になった。

ふと乱太郎の呆れ顔が目に浮かぶ。

いつか彼にはきちんと謝らなければ、と思い頭を掻いた。


(完)


るり様、お待たせしました!
きり丸を可愛く妬かせたかったのですが、うちの先生は格好付かないので結局妬かせてしまいました(´・ω・`)



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mokuji



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