甘い夜まで

折角の休日なのに朝から雨がぱらついて何だか気分が滅入るなぁ…なんて思っていたら、今日は一日委員会活動だと彼が部屋を出て行ってしまったから余計に落ち込んだ。

「…暇だな〜。こーちゃん、薬でも調合しようか」

一人ごちて準備をしようと立ち上がった時、誰かが部屋を訪ねて来るのが分かった。

「伊作、居るのだろう」

「仙蔵?いらっしゃい。丁度暇してたんだ〜。入って入って♪」

襖の間から覗かせた綺麗な顔を見ると嬉しくて笑みが零れた。

「どうしたの?もしかして仙蔵も暇してた?文次郎は…」

「一昨日から帰ってない。徹夜で帳簿と睨めっこだろう」

面白くない、と呟く。
文次郎の前ではそんな素直に口に出さない癖に、と思うと何だか仙蔵が可愛く見えた。

「お茶入れるね。晴れていたら二人で団子でも食べに行くのにね」

「そうだった」

持って来た包みから団子を取り出し机に置いた。

「後輩の父上から頂いた。一人では食べ切れんから良ければ食べてくれ」

「有り難う。仙蔵が来てくれて良かったよ。一人じゃ気分が落ち込む所だった」

茶を差し出し自分も向かいに座った。

「頂きます」

「どうぞ召し上がれ」

お互いの顔を見やって吹き出した。
楽しい休日になりそうだ。

団子を口に入れた所でちらりと仙蔵を見ると、彼も団子をくわえていた。

ふとある考えが頭を掠めた。

「…あのさ…こんな事聞いて呆れるかも知れないんだけど…」

目線を団子に落とし仙蔵に話し掛ける。

「何だ?」

「いや…やっぱりいいや」

「…話せ」

「うっ…怒らないでね?…仙蔵って、その…文次郎とね…もう、した?」

「…」

「…」

やっぱり聞かなきゃ良かった。
怖くて仙蔵の顔が見れない。

「お、お茶入れ直して来ようかな」

「三日に一度くらいだ」

「え?…ええ〜っ!!そっ、そんなに!?」

「お前達はどうなんだ?」

「いやっ、ぼ、僕達はまだ…」

「なんだ、まだまぐわってないのか。あいつもへたれだな。それとも伊作、お前が嫌なのか?どうせお前が下だろう」

「え!違うよ、嫌とかじゃなく…。さ、最初って…どっちから?」

「成る程、そんな段階か。…確か最初は私からだったか」

「せ、仙蔵から!?どう誘ったの?」

伊作が机にほぼ上半身を乗せた状態で仙蔵に迫った。

「あいつが中々手を出して来ない物だから痺れを切らしてな。唐突に口付けてー」

「く、口付けて?」

「耳元で抱いてくれ、とか言ったかな。それからー」

「それからっ!?」

必死な顔をしている伊作が微笑ましく仙蔵の頬が緩む。
留三郎は果報者だな。

「それから寝間着の裾から褌を剥いで、既に硬くなっているやつのをくわえてー」

「えええ〜っっ!!嘘〜っ!え〜っ!!」

「それでやつのスイッチが入ってな。朝までぶっ通しだ。途中縛られるわ、猿轡は噛まされるわ」

しまった、流石にこれはわざとらしかったか、と伊作を見やるが顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていたので思わず吹き出してしまった。



「ただいまー」

「留さん…お、お帰りなさい」

用具を一日中散々修理してついでに湯屋に寄って、やっとこさ深夜部屋に戻って来たら、何だか伊作がおかしい。

そわそわと言うか、心ここにあらずと言うか…

「遅かったね…」

「おう。もう寝てると思ってたのに」

「う、うん…」

布団の上に正座したまま全く動かない伊作。
また穴に落ちて足でも挫いたのだろうか。

「どっか怪我してんのか?」

そう言って伊作に近付くと、ふいに頬を両側から力一杯挟まれた。

「ぶっ!なんだっ?」

驚いて目を閉じた瞬間、唇に柔らかい物が触れた。

はっと目を開けると、顔を真っ赤にした伊作と視線がぶつかる。

「いさ…」

「留さん…抱いて、くれる?」

!!
な、なに!?
余りの衝撃に鼻血が出そうだ。

言葉に詰まっているといつの間にか伊作がいそいそと寝間着の裾を弄っている。

「何やってんだっ!」

「だって…こうしないと留のスイッチが〜!」

「…」

誰だ、こいつに吹き込んだ奴は…
…あいつしか居ないだろっ!!

立ち上がり廊下を駆け抜けた。



「お前…それはやり過ぎだ」

一層濃くなった隈が痛々しい。

「ふふ。伊作の反応が可愛くてつい、な」

ごつごつした膝を枕にごろんと横になって機嫌よく笑うお前の方が可愛い、とは口にこそしないが、さらさらの黒髪を撫でるとさらに嬉しそうに目を細めた。

「猿轡に縛られた、だと?俺はそんな変態じゃねえよ」

「…試してみるか?」

「は?」

「お前との夜伽も飽きて来たしな。刺激を入れねば」

「減らず口だな。…泣いても知らねえぞ」

そう言って乱暴に口付けした瞬間ー

「こぉらあぁ!仙蔵っ!!出て来ぉい!てめえ、伊作に変な事吹き込みやがって!!」

「留〜!違うんだよ〜」

「ちっ」

舌打ちしたのは仙蔵でなく、文次郎だった。

「久し振りのまぐわいを…っ!留三郎〜!!勝負だあぁっ!!」

そう言って立ち上がり廊下に出て、いつも通りの取っ組み合いが始まった。

「ごめんね、仙蔵…」

「此方こそ済まん。伊作、今日泊めて貰えるか」

「うん…部屋、戻ろっか」

結局鍛錬二人組は朝まで戻って来なかったー。
甘い夜まで、もう少し。


(完)



さくら様リクエスト有り難う御座いました。
あんまり4人が絡んでおらずすみません( >_<)






/


mokuji



top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -