先生が一番

学園長に呼び出され、何用かと思えば暇だから将棋の相手に、と小一時間自慢話を聞きながら相手をさせられ、疲れて部屋に帰って来たら中から聞こえて来たのが“これ"だー。

「山田先生…気持ち良いですか?」

「あ〜〜。きり丸、気持ち良いぞ。こんな事して貰うのは久し振りだ」

「…僕、流石にちょっと手が疲れて来ました」

「ああ、済まない。そろそろ出すかな…」

「お願いします♪」

慌てて襖をすぱーんっ!と開け放った。

「ちょっと山田先生ー!何してるんですかっ!!」

「おー半助。やっと戻ったか」

「先生、お帰りなさい」

そこにいたのは…
山田先生の肩をせっせと叩くきり丸の姿ー。

「か、肩叩き…」

…ってそりゃそうだろ!
私は今、何を考えたんだ…
病ましすぎるだろっ!

「何だ半助、百面相みたいに?」

「い、いえ!それよりっ、きり丸に何を出すんです!?」(しつこい)

「外出許可だ。これからアルバイトに行くそうだ」

自分と会話する間もきり丸は肩叩きを止めない。

…もういいんじゃないか?
いくら叩いたって、それなり年なんだから効かないだろ。(失礼)

ていうか、私の肩を叩く時は駄賃を取る癖に、どうして山田先生にはそんなサービスするんだ!?

「…先生、顔怖いっすよ」

きり丸にそう言われはっと我に返る。

「きり丸、もういいぞ。楽になった」

「いえいえ、いつでも言って下さいね」

いつでも言ったら駄目だ!
そんなに叩きたいなら私にすればいいじゃないか!

「だから先生、顔…」

「私の顔は置いといて!…それで?今日は何のバイトなんだ?」

「今日は子守のバイトです。ただ人数が多いから…」

その時、廊下から数人の足音が聞こえた。

「失礼します!きり丸はいますかー?」

「あ、来た来た!はーい、いまぁす♪」

そう言って嬉しそうに襖を開けた。

そこにいたのは六年生の潮江文次郎、中在家長治、七松小平太の鍛練大好き三人組だった。

「よう、きり丸。待たせたなぁ」

待たせた…?まさか…。

「先輩方、お手伝い宜しくお願いします!」

やっぱり!
何だか最近この三人組と一緒にバイトに行く機会が多くないか?
いや、別に全然良いのだけれど…

「任せておけ!」

「ついでにきり丸、お前の子守もしてやるぞー」

「何すか、それー?」

別に全然…
 
「お前いつも赤ん坊と一緒に寝てしまうもんなー」

「それは先輩方がめちゃくちゃして疲れるからでしょ!」

「ぼそぼそ…」

「何だ、長治?…きり丸の寝顔が可愛いってさ」

「そうそう、可愛い可愛い♪」

「…やっぱり全然良くなーいっ!」

「うわぁぁっ!土井先生、急に何ですかっ」

はっ、心の声がつい…

「ゴホン!…きり丸、ちょっと来なさい」

「来なさいって…どこに?」

「ええっと…火薬庫だ、火薬庫!」

「何で俺が?今からバイトに…」

「すぐ終わるからっ」

皆の視線がかなり痛いが、それよりも今はきり丸をここから連れ出したい気持ちが勝っていた。



火薬庫に招き入れると急いで戸を閉めた。

「先生、何ですか?」

「いや、その…もうすぐ夏休みだろ?…夏休みはバイトも私が!手伝ってやるからな?」

「…はい」

「それから…そうだ!肩叩きは…駄賃を払うから毎日して貰って…」(払うのか)

「…先生」

「そうだ、夏祭りも一緒に行こうな!」

「先生!」

見下ろすと自分を睨むきり丸と目が合った。

「特に用無いんでしょ?」

うっ…バレてる。

「んもう、俺忙しいんだから!」

「す、済まん」

本当に何やってるんだか…

「先生って時々子供みたい。ヤキモチなんて妬かなくてもいいのに」

「え?」

そう言うと襟元をぐいっと引き寄せ、耳元で囁いた。

「先生が一番ですからね」

!!

「じゃあバイト行ってきまぁす!」

そう言って手を振り走って行く後ろ姿を見ながら、一番という言葉に優越感を感じていた。

土井半助、25歳初夏ー。
15歳年下にぞっこん中。

(完)



ななこ様リクエストありがとう御座いました!土井先生が馬鹿っぽくなってしまって申し訳ありませんm(_ _)m



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mokuji



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