もうちょっと待って

上級生になり授業料が上がった分、バイトを増やさないとならないのは知っている。

だから長期休暇中も昼間は店で、夜はこうして家で内職に励んでいるのは分かる。

だけどー。

「なぁ、きり丸?」

「…」

「明日は夏祭りの日だぞ。覚えてるか?」

「…」

「一緒に行く約束だろう。まさか忘れてバイト入れたんじゃないだろうな?」

「…」

「なぁ、聞いてるのか?」

黙々と造花を作る手を止めないので、ちょっと苛めてやろうと近付いた。

わざとちゅっと音を立てて白い項に口付けた。

「わあっ!…も〜、先生何してるんすか!」

思わず手から花を落とし、睨みながらこちらを振り向いた。

「集中してるんだから話し掛けないで下さいっ!」

そう言ってまた前を向いたが、心なしか耳が染まっている。

可愛い反応に気を良くし、また悪い考えが頭に浮かんだ。

今度は後ろからがばりと抱きついてやる。

「私も手伝ってやろうか?二人でやる方が早いだろ」

「ちょっ…先生、大人気なさすぎ!今は忙しいんだってば!もうちょっと待ってよ!」

じたばたと自分の腕の中で暴れる恋人は、暮らし始めた頃に比べて随分と背も伸びたが、華奢なのは変わらず全く自分に適わないのがまた可愛いらしい。

「今日中に終わらせないと駄目なんですから!さっきから何なんですかっ」

解放してやるとやっと自分の正面を向いて座った。
口調は怒っているが顔は真っ赤だ。

「…済まない。しかし、私だって休みをかなり楽しみにしていたし」

「…」

「普段はバイトで忙しいから明日は楽しませてやりたいと思ってたんだ。今日も家に帰ってから殆ど会話していないし…」

「…」

「…ちょっと寂しくて甘えてしまった。済まん」

そう言うとくるりとまた姿勢を戻し、紙を折り始める。

これは相当怒らせてしまった、どう機嫌を取ろうかと頭を掻くと小さな声で呟いた。

「…俺だって夏休み、楽しみにしてたに決まってるでしょ」

「え?」

「やっと先生と二人きりになれるんだから…俺だって引っ付きたいの我慢してるんです」

「きり丸…」

「先生と夏祭り行くの楽しみで、明日バイト出来ないから…これ、今日中に終わらせたいんだから」

そう言ってこちらを振り向いたきり丸は堪らなく可愛い顔をしていた。

「…だからもうちょっと待って?」

「〜〜〜っ!!」

堪らずぎゅうぎゅうと抱き締めてしまった。

「だから先生ってば〜!!」

ちょっとだけ、ほんの少し抱き締めたら内職を手伝おう。

そう勝手に心に決めて、暴れるきり丸を味わった。


(完)



菜々子様リクエストありがとう御座いました!…土井先生がちょっと大人気なさすぎてすみません(´・ω・`)



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mokuji



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