どきどきさせないで

ひと月前に先生と恋仲になったばかり。

とは言っても学園にいれば二人きりになる機会なんて殆どない訳で、手を繋ぐくらいしかしていない。

今も目の前で教鞭を取る恋人を恨めしそうに見つめていた。

「はぁ…」

無意識に溜め息を付くと額にチョークが飛んで来た。

「何だきり丸。私の授業がそんなにつまらないか?」

「いえ!…すみません」

思わず姿勢を正すと優しく微笑まれどきりと胸が高鳴った。

あの顔…好きなんだよなぁ。
ていうか恋人の額にチョーク飛ばすか?
いや、先生を睨んでた俺が悪いのは分かるけど…

なんていうか…
これって所謂…
“欲求不満"てやつ?

いや、厭らしい意味じゃなくてっ!

…もっとくっつきたい、とかぎゅってして欲しいとか、兎に角先生に近付きたいだけなんだけどー。

だけど学園じゃ無理だな。
次の長期休暇まで我慢しないとなぁ。
…なんて思っていた。

授業の終わりに「きり丸は部屋に来るように」と言われ、先程の事をいつもの様に担当二人に叱られるのかなと渋々部屋を訪ねた。

「きり丸です。失礼します」

「入りなさい」

襖を開けると山田先生はおらず、土井先生が一人で試験の採点をしていた。

「あれ?先生一人ですか?」

「山田先生は午後から出張だ」

「へぇ…」

あれ?
念願の二人きりなのに…何を話したかったんだっけ?
顔だけが熱くなってどうして良いか分からず俯いた。

「最近授業中にぼーっとしたり、私をじっと睨んだりしているだろう」

ああ、怒られる!

ぎゅっと目を閉じると頭の天辺に熱い呼吸を感じてー

ちゅっ。

額に柔らかい感触…っ!!

ばっと目を開くと既に先生は微笑みながら机の前に座り直している。

額を両手で押さえ真っ赤になりながら、魚の様に口をパクパクさせるしか無かった。

「なっ…今…おでこ…ちゅっ、て…」

「あんまり見つめられると照れるだろう。分かったら行って良し!」

そう言ってにやにや笑いながら手を振った。

いや、行って良しと言われても…
心臓がどきどきして息が出来ないしっ!

「は、い…失礼しました…」

何とか部屋から出てよろよろと歩きながら長屋へ向かう。

何だ、あれは…。
学園じゃそういう事しないって確か約束しなかったっけ?
誰もいなきゃいいんだっけか?…いやいや!
あ〜、いきなり過ぎて死にそうだった…。

…先生、俺の気持ち分かってるとか?
いちゃいちゃしたいのがバレてる…?
いや、まさかな。
鈍感な先生にそれは無いか。
先生もきっと単にそんな気分だったに違いない。
…めちゃくちゃ嬉しかったけど♪

額を撫で、少し赤い顔のまま部屋に戻った。



夕方、図書室当番で一人机に座っていた。

五・六年生は実習だし、四年生は三年生に忍器の使い方を教えているから、今日は人が来ないだろうなぁと頬杖を付いていると廊下から足音がする。

はっとして顔を上げると予想通り、土井先生が入って来た。

「何だ、今日は誰も居ないのか〜」

急に昼間の出来事を思い出し、先生から目を逸らした。

「み、みんな実習とかだし」

「そうか。奥でちょっと探し物するぞ〜」

そう言って本棚の奥へと消えてしまった。

…何だか先生は全然気にしてない感じ。
自分はこんなにどきどきしてるのに…。

一人口を尖らせていると部屋の奥から名前を呼ばれた。

「何ですか?」

「探し物手伝ってくれるか?」

仕方無く先生の声のする方へ向かう。

本当に部屋の最も奥、あまり生徒が読まないマニアックな火薬の本が並ぶ棚の前にいた。

「こんな本、先生と立花先輩くらいしか読みませんね」

「はは、そうだな」

「何て言う本ですか?」

本棚を見つめていると突然後ろから抱き締められた。

!!

一気に顔が熱くなる。

「せ、先生!何してるんすかっ…!」

「何って…抱擁?」

「そういう事じゃなくて…!だ、誰か来たらどうするんですかっ!」

じたばたと暴れるが一向に体は離れない。

「大丈夫だ。来たら気配で分かるから」

耳元で囁かれまたもや心臓がどきどき波打つ。

「きり丸…お前は俺とくっつきたくないのか?」

「そっ、そんなのくっつきたいに決まってるでしょ!…先生に近付きたくて、ひと月そればっかり考えてたんだから…」

そう言うと先生がふっと笑うのが分かった。

「やっと聞けたな」

「え?」

見上げると後ろから自分を抱き締めながら見下ろす優しい視線とぶつかった。

「そういうの、言ってくれていいんだぞ?むしろ聞きたい」

…全身が心臓になったみたいだ。

「だって…そんな事言われたら先生困るでしょ?」

大きな手で頭を撫でられる。

「大丈夫だ。俺はお前よりうんと大人なんだから。お前の嬉しそうな顔を見たいし、そうやってどきどきしてる顔も可愛くて仕方無い」

そう言ってそっと口付けられる。
初めての口付けに何が何だか、頭が真っ白になった。

先生の顔が離れて、何とか声を絞り出す。

「…あのね、先生?」

「何だ?」

先生の袖をぎゅっと掴んで囁いた。

「…これ以上、どきどきさせないで。幸せ過ぎて死んじゃいそう…」

先生が嬉しそうに笑って、もう一度、今度は少し長い口付けをしてくれた。

(完)


幸せなきりちゃんを目指したのですが、ふたば様…駄文で申し訳ありません(≧Д≦)




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mokuji



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