土井半助の苦悩

きり丸が旅行に行きたいと言い出した。

普段は節約だと言って家では茶さえ出さないのに、と不思議だったがすぐに謎は解けた。

“卒業までに先生と二人きりで旅行したくなったからー"

…ああ、もうっ!
可愛い過ぎやしないか!

あいつは普段甘えない癖に、時々計算かと思うくらいの破壊力を見せるのだ。

結局言われるまま、最後の秋休みに温泉街に行く事になった。

卒業しても変わらずあの家で一緒に暮らすのだが、今までろくに二人で出掛けた事もないし、良い思い出になるには違いなかった。

「先生、楽しみですね♪美味しい物食べましょうね!」

温泉街に間もなく着くという頃、きり丸がいよいよだと目を輝かせて話し掛ける。

最上級生になって背も伸び大人っぽくなったが、屈託のない笑顔は健在だった。

「そうだな。ここの温泉は胃弱の者に効くらしいからゆっくり浸かるかな。誰かさんの就職活動でかなり疲れた事だし」

「そんなぁ。心配かけたの僕だけじゃないでしょ?」

きり丸が口を尖らせた。

…何だ、その可愛い仕草はっ!
いや、何をしても可愛いと思ってしまう自分が末期なのだろう。

「…先生、旅行楽しみじゃないの?」

自分の顔を上目遣いで見つめて尋ねる。

「…いや、楽しみだよ」

本当はかなり楽しみで昨日寝付けなかったし。

「良かった。俺、先生と二人だけの旅行初めてだから、楽しみにし過ぎて昨日寝れなくて…」

…!

「忍術学園や長屋と違って、誰も俺達の事知らないんだって思ったら…何かドキドキしちゃって」

…待て待て。

「先生、俺…今日も寝れないかも知れない」

…またすごい破壊力がっ!!
頼むぞ、俺の理性。
卒業まで手は出さないと決めたのに、こんな可愛い事を言われたら、所謂据え膳と言うやつで…

一人で悶々としていると宿が見えて来た。
人の苦悩を知らずに「着いた!」と笑顔で走って行ってしまった。

溜め息を付いて後を追った。



宿の主にはてっきり歳の離れた兄弟くらいに思われていると思っていた。

豪華な夕餉を食べ、温泉で有りっ丈の理性を働かせて何とか部屋まで戻って来たが、襖を開けて愕然とする。

敷いてあったのは大きめの布団一式ー。

「…先生…」

「何でこんな事に…」

きり丸の頬が染まっているのは、風呂上がりのせいだけではないはずだ。

「…もう一式敷いて貰おう」

そう言って部屋を出ようとすると、袖を引っ張られた。

「あ…暖かいし、俺はこのままで良いですよ」

「…いや、でも…」

「先生…嫌?」

…な訳ないだろっ!むしろ逆だが…

「俺は…先生と引っ付いて寝たい…です」

そう言って俯いたきり丸を見て何かが切れる音がした。

ドサッ!

気が付くときり丸を布団に押し倒していた。

「も〜っ…お前はどれだけ俺を煽る気なんだっ!こっちは抑えるのに必死なんだぞ!」

額同士をくっつけて訴えると、そうっと両手で頬を包まれた。

「先生、やっと“俺”って言った」

「え?」

少し顔を離してきり丸を見つめる。

「先生が“俺"って言う時は、“先生"から“土井半助さん"に戻ってる時でしょ?それでそんな事言われたら…本当に俺の事好きなんだって思えて嬉しー…っ!!」

きり丸が言い終わらない内に口付けていた。

初めは触れるだけの口付けだったが、ぎゅっと目を閉じて堪える顔を見ていたら、我慢出来ずに舌を割り入れた。

「んんっ…はっ…せ、んせっ…」

夢中になってきり丸の口内を舐め回す。
息も絶え絶えに何とか自分もそれに応えようと、恐る恐る舌を出す仕草に体が熱くなった。

「あ…はん…も、くるし…っ」

「お前が悪いんだぞっ、可愛い事言うから。…もう止まれないからな」

そう言って口付けを続けたままきり丸の寝間着を乱して行く。

露わになったきめ細やかな白い肌に一気に欲情した。

「せんせぇ…せ…んあっ…はんっ!」

唇を離し、胸の突起に吸付くと弾かれたように甘い声を漏らす。

「先…生…だめ…お、れ…」

「きり丸…きり丸…」

うなされたようにきり丸の名前を呼びながら、胸や腹を愛撫しさらに下へ移動した。

しかししばらくして何か違和感があり、まさかと思いながらふと顔を上げる。

「ぐ〜」

「…嘘だろ」

信じられない事に、一人眠りに付いたきり丸を見つめた。

…生殺しとはこの事かっ!
あんなに熱い声を出しておきながら、人間はこうもすんなり入眠出来るのか?

これからどうしようかと、一人がっくりと肩を落とした。



翌朝ー。

「いや〜、一昨日寝れなかったし、何だか気持ちいいなぁと思ってたらいつの間にか…すみませんでした」

朝起き、目の下に隈を作った自分を見て苦笑いしながら謝る恋人。

結果的には本能に負けてまだ生徒である内に手を出さなくて済んだ訳だが…。

背中を向けて拗ねていたら、ぎゅっと抱きしめられた。

「怒ってる?」

そんな声で聞かれたら、いいやと答えるしかないだろう。

「…先生が良いならもう一泊しましょ?」

ひょいと後ろから顔を覗き込まれた。

ああ、また今夜も苦悩しなければ…と目を閉じた。

(完)


チューリップ様、駄文で申し訳ありませんです…(*_*)



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mokuji



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