湯あたり

「あ〜疲れたーっ」

六人兄弟の子守と掃除・洗濯を掛け持ちして、忍術学園に帰ったのはもう大方の生徒が夕餉をとっくに終えた後だった。

食堂のおばちゃんにお願いして握り飯だけ用意して貰い、空っぽのお腹に流し込むようにして平らげる。

食器を片付け部屋に戻ると、既に湯浴みを終えて布団の上で談笑する乱太郎としんべいが嬉しそうに迎えてくれた。

「きりちゃんおかえりー。お疲れ様〜」

「ただいまー。疲れたぁ」

「きり丸夕餉は食べられたの?お饅頭食べる?」

「おばちゃんに握り飯作って貰ったんだ。遅くなったけどまだ湯屋開いてるかなぁ?」

「上級生の方が上がる頃じゃない?まだ大丈夫だと思うよ。布団敷いておいてあげるから行ってきなよ」

「サンキュー!行って来る」

さっと用意をして急ぎ早に湯屋へと向かった。



乱太郎が言った通り脱衣場に入ると、丁度湯浴み上がりの六年生・善法寺伊作がいた。

「きり丸じゃないか。今までバイトだったのかい?」

「はい。もう皆さん上がられたんですか?」

「う、うん。留三郎がもう上がって来ると…」

そう言った所で浴室の戸がガラリと開いた。

「あっちぃ〜!やっぱり湯屋でまぐわうのは無ー」

「うわあああっ!と、留〜っ!」

伊作が留三郎の口を塞ぐがもう遅い。

「…俺、何も聞いてません…」

そう言って服を脱ぎ浴室に入った。

「違うんだ、きり丸〜っ!結局何もしてないんだよー!」

後ろで焦る声が聞こえる。
問題はそこじゃないと思うんだよな。
無視しよう。



体と髪を洗ってお湯に浸かった。

気持ちいーな。
疲れたしこのまま寝ちゃいそうだ。

湯船の縁に頭を乗せてウトウトしていると、誰かが浴室に入って来た。

慌てて目を開け、湯気の向こうの人柄に目を凝らす。

「…先生?」

「なんだ、お前。こんな時間までバイトだったのか?夜に掛かるバイトは止めるように言っただろうが」

愛しい担任がちょっと怒った顔でこちらを見下ろしていた。

「掛け持ちし過ぎて予想外に遅くなっただけです〜」

口を尖らせて呟く。

これは勿論乱太郎達だって知らない秘密だけれど、三日前俺は土井先生に告白したんだ。
「先生が好き」って。

そうしたら「私もだよ」って言ってくれた。
それって所謂恋人…ってことだよな。
思わず顔がにやけてしまった。

「きり丸、背中流してくれないか?」

そう声を掛けられてはっと我に返る。

「食券一枚でいいですよ♪」

湯船を出て先生に駆け寄った。

「お前なー…」

手拭いを受け取る手を掴まれてしまった。

「恋人からも駄賃を取るのか?」

瞬間にぼんっと顔に火が付く。

それを見てニヤリと笑うと手を離して背中を向けた。

っ…いつもはそんな顔しないくせにっ!

熱い顔のままで背中を擦りながら先生の体を見つめる。
実は筋肉質な均整の取れた体付きにうっとりとしてしまった。

先生、格好良いな。
こ…恋人になった、ってことは…いつか留三郎先輩や伊作先輩みたいなことするのかな…
こんな…湯屋ででも…?

「きり丸?」

いつの間にか手が止まっていた。
慌てて動かすけどもう限界かも…

「先生…すみません。先に上がります…」

「何だ、のぼせたのか?」

「いえ…そうじゃなくって…」

恥ずかしくて泣きそうになった。

俺っていつからこんな助平になったんだろう。

次の瞬間、先生がふっと笑ったかと思うと突然抱えられ膝の上に乗せられた。

「ちょっ、先生!?」

背中から抱き付かれ先生の胸が触れた。

一気に体温が上がる。

「今度は私が洗ってやる」

そう言うと手に石鹸を付け直接体を洗い始めた。

「お、俺もう洗いましたっ!て言うかこ、…こんな所、誰かに見られたらどうすんの!?まずいでしょっ!」

じたばたと暴れるが、先生の腕ががっしりと自分の肩の上で固定され動けない。

「上から順番に洗わないとな」

耳元で囁かれ肩が上がった。

首筋を指先で厭らしくなぞられて背中がぞくりとする。

ゆっくりと手が下りて胸の辺りで円を描くと突然爪先で突起を弾かれた。

「あんっ」

無意識に出た声に驚いて口元を両手で覆う。

なんだ、今の…っ!!
は、恥ずかしいっ!

「も…先生、お願いだから止めて…俺、おかしい…」

呼吸が苦しい…

「まだまだ、ちゃんと洗わないと」

…このエロ教師!
一体どんな顔して言ってるんだと見上げると、予想外に愛しくて仕方無いって感じで俺を見てるから胸が高鳴った。

心臓がバクバクして…

「後、ここもな…」

先生の手が自分の下半身に潜り込んだ。
ぎゅっと握られる。

「…!!」

先生の手がっ…触ってる…
心臓が大きく脈打った。

その瞬間ー

バタリ。

記憶はないが床に倒れてしまった。
所謂、湯あたり…



後で乱太郎達に聞いた話だと、泣きそうな顔をした先生が走りながら俺を抱きかかえて長屋に戻って来たらしい。

理由を尋ねたが「私が悪いんだ」と繰り返して反省していたって。

本当に強引なんだかヘタレなんだか…

しんどかったけど、その、いつもと違う先生が見られてすごい嬉しかったのはまだ秘密にしておこう。

もうちょっと反省してもらわないと。

それで続きはまた今度、湯屋以外でしてもらうことにしよう。

(完)



うわー…何という馬鹿話…。さくら様、お許し下さい( >_<)



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mokuji



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