やっぱりキミが好き (☆さくら様へ祝30000hit記念☆) 放課後、用具倉庫にひょっこり顔を出したのは本来ならここに用は無い筈の保健委員だった。 「伊作先輩、いらっしゃいますか?」 「何だ、数馬。伊作先輩に用事か?」 中で備品の数を数えていた同窓が手元から顔を上げ、入るよう手招きした。 きょろきょろと周りを見渡し、他に誰も居ない事を確認すると駆け寄る。 「う〜ん、用事って訳じゃ無いんだけど…もし時間が有ったら聞きたい調合が有ったんだ。医務室にも長屋にも食堂にもいらっしゃらなかったから、ここかなと思ったんだけど…」 しかしここに一緒に居ると思った用具委員長の姿も見えない。 作兵衛がぽりぽりと頭を掻いた。 「あー…実は食満先輩もいねえんだ。俺もちっと聞きてえ事が有ったんだが」 「そっか。…ん?って事は―」 数馬がはっとして作を見やると眉を顰めてうんうんと頷いた。 「そうだ、今日は“あの日”なんだよ」 「はあぁ…じゃあ諦めるかな。きっと帰りは遅いだろうし」 「ああ、そうしろ。先月は夕餉終わってから帰って来られたからな」 “あの日”―。 それは月に一度の頻度で遣って来る。 二人が揃って出掛ける、言わば“逢い引きの日”なのだ。 「留見てよ!おまけして貰っちゃった♪」 「お前にしてはツイてるな」 「本当だこの後怖いなぁ…って何言わせるんだよ!単純に僕が可愛かったからだろ」 「自分で言うな」 そうは言った物の、伊作の言う通りその姿は可愛い。 女装の腕前は原型の造りを台無しにする程相当酷い物だが、今日は留三郎が施したお陰か道行く者もちらりと視線を向ける位に仕上がっていた。 女子にしか見えないし、留三郎の贔屓目に見てもかなりの美人だと思う。 伊作がパタパタと町を歩く度ににやつきそうになるのをぐっと我慢しているのだ。 だがら今の様に団子屋の売り子が店主に内緒で何本か余分に包んだのも、伊作の運と言うよりは留三郎の実力なのだが。 月に一度、委員会活動の無い日にこうして町まで出掛けるのが何時からかの習慣になっている。 買い出しをしたり、ただ単に散歩をしたり、取り敢えずは二人だけの時間を過ごす。 女装はそんなに頻回にはしないが、偶に見てみると新鮮だった。 そんな留三郎の視線には気付かずに伊作がふふふと笑みを漏らす。 「委員会のみんなにも配れるね、良かったぁ〜!」 着物の袖口を上げて嬉しそうに笑う伊作を見て留三郎が頭を掻いた。 その仕草を見た伊作が首を傾げて近付く。 「何?どうしたの?」 「…何でも無い」 「嘘付き。隠さないで言ってくれよ」 「本当に、何でも…」 伊作がぷうっと頬を膨らませたのを見て、溜め息を付きながら呟いた。 「いや…お前、可愛いなって思って」 「は?…そりゃ女装してるし―」 「違う、見てくれだけじゃ無くて…そこで後輩が出てくる所とか、すげー嬉しそうにしてる所とか、その…やっぱ好きだな、って」 「…」 「…だから言いたくなかったんだよ!ほらっ、帰るぞ!」 伊作の手から団子の包みを乱暴に奪って留三郎が背中を向ける。 暫く先行くその背中を見詰めていた伊作が駆け寄って、空いた手の方へ回った。 躊躇無くその腕に自分の腕を絡めて肩口にそっと頭を乗せると、留三郎が驚いて身を捩る。 「な、何だよいきなり…っ!!」 「良いじゃない、今は男女の恋人同士なんだからさ」 「にしてもお前、皆ちらちら見てるだろ!」 「見せ付けたいんだよ、僕が」 「…何を」 「こんな良い男が僕の物だ、って事。僕だって君の事、好きで好きで堪らないんだから」 そう言って背伸びをして頬にちゅっと短く口付けると、留三郎の体が固まった。 視界に伊作が入らぬよう、反対側へ顔を少し反らしている。 それがまた愛しく思えて、伊作の頬も赤く染まって行く。 「もうちょっと散歩して帰ろう。良いだろう?」 「…ああ、そうだな。こんな顔、後輩に見せらんねぇよ」 「あはは、意外にウケるかもよ」 「馬鹿、それが嫌なんだって!」 そう言いながらも腰に手を回しその体を引き寄せた留三郎に、再び伊作がその身を預けた。 ー僕は、やっぱりキミが好き。 (おまけ) 「あ、作!さっき帰って来られたよ。団子を買って来て下さってただろう?」 「あ、ああ…知ってる」 「どうしたの?顔赤いけど…」 「…伊作先輩、今日女装だったか?」 「うん。でも、何で?」 「ふうん…そっか…いや、良いんだ」 「作ちゃん?」 「いや、あのな…頬に、紅がな…今井戸に行かれたんだけどな…」 「!!!!」 (完結) さくら様、30000hitおめでとう御座いますっ(≧∇≦) 相も変わらず毎日馳せ参じて居りますよ! 駄文を送り付けますが、決して嫌がらせでは無く一応お祝いですのでねっ!(◎_◎;) これからも仲良くしてやって下さいませ☆ 本当におめでとう御座います〜っ!! お題は→確かに恋だった様より ←/→ top |